ボクはただ、それを運ぶだけ

くらんく

第1話 枕元

「最期に、誰かに伝えたいことはありますか」


 時刻は午前二時を過ぎたころだが、部屋はそれほど暗くは無い。少年の足元は照らされ、学生服のズボンが少しだけ短いことがわかる。もっとも少年の目下で横になっている老婆は天井を仰ぎ見ており、少年の顔すら見ていないだろう。


 大きな部屋にベッドはひとつだけあり、モニタには一定のタイミングで上下を繰り返す線と、ほとんど変動のない数字が示されていた。


 老婆が力を振り絞り伝えようとした言葉は、静寂に飲み込まれ聞き取ることができない。少年は老婆の目の前に差し出していた、紐のついた鈴を大切に大切に抱きかかえると、チリンと音が鳴った。


「たしかに受け取りました」


 少年がそういうと老婆といくつかの管で繋がれた機械がけたたましく鳴りだした。モニタに映された線は跳ねるのを止め、黙っている。


 数人の男女が忙しなく部屋へ立ち入る。彼らの白い服と対になるような学生服を着た少年は、部屋のどこにもいなかった。

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