2014年4月29日(火)

2014年4月29日(火)


「──……?」

背筋をぶるりと震わせる。

「ちょっと寒くない?」

「さむいよー」

没頭していた専門書から顔を上げると、うにゅほが半纏を着込んでいた。

「いつの間に」

「さむいんだもん」

つい昨日までは暑い暑いと思っていたのに、もうこれだ。

無理は言わないから、せめてどっちかにしてほしい。

「◯◯、さむくないのかなっておもってた」

うにゅほの視線を辿る。

「──…………」

まくり上げていたシャツの袖を、無言で直した。

「なんでまくってたんだろう……」

「さあー」

思い出せない。

「◯◯のはんてん、だしてあるよ」

「お、気が利く」

「うへー」

うにゅほが照れたように笑う。

「出したとき言ってくれてもよかったけど」

「しゅうちゅうしてたから……」

「そんなに集中してた?」

「うん」

半纏に袖を通し、壁掛け時計を見上げる。

「──うわ」

二時間くらい吹っ飛んでいた。

「そのほん、おもしろいんだね」

「ああ」

「なんのほん?」

「──…………」

気取られないよう、うにゅほの様子を観察する。

「ほら、こないだ図書館で借りただろ」

「うん」

「素粒子物理学の」

「そりゅうし」

あ、聞き流しモードに入った。

うにゅほには、興味のない話をされたとき、どこか遠くに焦点を合わせながらオウム返しをする癖がある。

「──ま、もうすぐ読み終わるから、明日か明後日にでも図書館行こう」

こんなときは、さっさと話を切り上げるに限る。

「うん、いこう」

戻ってきた戻ってきた。

半纏にくるまりながら、読書漬けの一日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る