2012年5月21日(月)

2012年5月21日(月)


午前七時過ぎから始まる金環日食を観測するため、昨夜は徹夜をした。

時間を潰すためにフリーゲーム「elona」をプレイしていたら、いつの間にか朝日が昇っていた。

相変わらず恐ろしいほどの時食い虫である。

午前六時を迎え、にわかに家中が活気づき始めた。

それに合わせ、ほんの3メートルほど先で物音が聞こえた。

パソコンチェアから半身を乗り出し、サブディスプレイの向こうを覗き見る。

うにゅほがのそのそと布団から這い出していた。

眠るところは毎日のように見ているが、起きるところは初めてかもしれない。

着替え始めそうな気配がしたので、立ち上がって声をかけた。

「おはよう」

うにゅほはこちらを見て、しばらく固まったあと、

「……おはよ?」

と、疑問形で挨拶を返した。

リビングの両親と「今日は日食だねえ」などと会話を交わし、久方ぶりの朝に没頭する。

両親が出勤したあと、テレビ中継を見ながら金環日食について軽く説明をした。

うにゅほはわかったんだかわかってないんだかよくわからない顔をしていたが、すごい天体現象であることだけは伝わったようである。

サングラスを三重にした即席日食グラスで、欠け始めた太陽を順番に覗く。

「すごい! 月みたい!」

「そーだろそーだろ」

はしゃぐうにゅほに、俺は内心いい気分だった。

徹夜までした甲斐があったというものである。

「月が太陽の真ん中にまで来たら、金色の環になるんだ」

「おー」

目を傷めないよう、短時間ずつ観測を続けていると、おかしなことに気がついた。

金環になることなく、月が太陽から離れていくのである。

見逃したか?

いや、それはないはずだ。

慌てて調べてみると、緯度の関係上、北海道では部分食しか見られないのだという。

俺は頭を抱えた。

金環食を見ることができなかったのは、いい。

ただ、ろくに調べもせずに見れるとばかり思い込んで、うにゅほに期待を持たせてしまったことが、つらい。

天井に向かって溜息を吐き、ありのままを伝えて頭を下げた。

「もうみれないの?」

「いや、北海道では十八年後に見れるらしいけど……」

「じゃ、それみよ?」

うにゅほはそう告げて、俺の手を取った。

十八年後と言ったら、うにゅほは三十代だし、俺に至っては四十路過ぎなんだけど。

でも、気持ちはありがたい。

謝罪の言葉を礼に変えて、そのまま布団にもぐり込んだ。

部分食でも珍しい……部分食でも珍しい……。

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