第一話 雹のはじまり
ひんやり、すべすべ。
居心地の良い冷気に包まれて、僕は寝ぼけた頭でふにゃりと笑って。
……あれ、でも、おかしいな?
日本はまだ秋で、こんな冷たいものなんてないはずなのに……。
そこまで考えて、そろりと目を開けると。
真っ青な空と、透明な……氷で出来た、木々が見えて。
……どうやら僕は、凍った大地の上で寝そべっていたらしい。
「すごい、ファンタジーだ……」
こんなに氷で囲まれた場所、日本にはない。
……僕でも、こんな氷漬けには……出来るかな? どうだろう。
僕は異能持ちというやつで……子供の頃から感覚的に異能を使って、家族はともかく、クラスメイトにはよく恐れられていた。
異能の内容は「氷」
氷を生み出したり、操ったり。水は無理だけど雪ならなんとか操作出来たりもする。
だから、というべきか……寒いところが好きで、暑いところが苦手だ。
閑話休題。
ふと思いついた僕は、異能で少し氷を生み出してみた。
「異世界すごい……」
あえて細かく指定しなかったけど、いつもより多い、質が良い、動かしやすい。
この雪と氷だらけの環境も影響しているだろうけど……。それを差し引いても、異能を使った疲労が少ない。
「ねえ
振り返っても、見まわしても、親友の姿はなくて。
慌てて探知の網を展開して、光を探す。
ちなみに、異能持ちの知人には「執念ってこわいな」と引かれた。
氷の操作という物質系の異能持ちである僕には本来、この探知と呼ばれる技術は習得できないのだが、頑張って訓練したら出来るようになったのだ。異能の制御などを指導する教官には化け物でも見るような目で見られたが、その目は不本意である。
探知の網には、何も引っ掛からない。
……いや、厳密には人っぽいものが1つ引っ掛かったが……光ではない。
追加すると、この森(?)には、動物も少ないようで、僕を襲いかねない大きな生物は居ないようだが……。
少なくともこの周囲には光は居ないらしい。
つまり。
僕と光は、はぐれてしまったらしい。
「…………一緒に居る、1人にしないって、約束したのに……」
呆然と呟いた声は、誰にも聞かれず氷に吸い込まれて行った。
――――――――――
補足コーナー
・異能
魔法にも近しい、特殊能力のこと。
氷を操るような……戦闘にも使える能力から、自分の周りについて感知するような能力……もしくは「動物に襲われない」というだけの、日常生活を送る分にはまったく役に立たないものまで、本当に色々ある。
感知系の異能を応用して、異能の力による「網」を作り探知する……という雹が行った技法は、理論上は異能持ちであれば誰でも可能ではあるが、能力の向き不向きの問題なのか、本来は物質系と呼ばれる、雹が持つような「氷を操る異能」でそれを習得出来た人はおらず、不可能だと思われていた。
というか、不可能だった。
その不可能を執念でひっくり返した雹に、彼を知る人はドン引きした……という裏話。
ちなみに、光は雹が異能持ちであり、それが氷を操る異能だとは知っていますが、この探知の網を使えることは知りません。
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