理由がないとダメみたい

シヨゥ

第1話

「なんだか理由がないと動けなくなってしまったな」

 執務室で二人っきりになった途端そんな言葉を団長が漏らす。

「もっとに外に出たいのですか?」

「それはもちろん。騎士として国民を守るのが責務だからな」

「では外に出ては?」

「そう簡単にもいかんのだ。国民守るのが騎士の務めではあるが、団長として騎士を守るのもまた務めなのだ。いざというときに私がどこに居るかがわからないではいけないだろう」

「たしかにそうですね」

「どこに居るかがわかる。ということはそこに居る理由が生まれる。つまりはその理由があって初めて動くことができるんだ」

「なるほど。難しいですね」

「本当に難しい。責任というのは本当に厄介だとこの身分になってしみじみ思う。駆け出しの頃のように街をめぐり、顔をつき合わせて様々な人と話したいものだ」

「それでは招いては?」

「それじゃあいかんのだ。作られた空間では作られた話しか出てこなくなる。ふらっと行って、取り繕う暇もなく言葉を交わす。それでようやく本質が確かめられる。確かめてどうするか。分かるな?」

「はい。不安を取り除くということですね」

「さすがは団長付き。よく分かっているな」

「あなたと共に駆けた日々の中で学ばせていただきましたから。騎士というのは盾となるもの。それは肉体的にも、精神的にも守護するということ。そう何度も教わりましたから」

「上出来だ」

「だからこうやってあなたの話を聞いているんです。少しでも心が休まれば。そう思っております」

「本当によくできた子だよ。お前は」

「お褒めに預かり光栄です」

 恭しく礼をすると団長が咳払いをする。やめてくれという合図だ。それに従い顔を上げると団長は立ち上がっていた。

「ところでどこかへ巡回に行く予定はないか?」

 そしてそんなことを訊いてくる。

「特には。お側付きですので、団長が行かれる場所以外へは行く予定は――」

「いや、絶対巡回の予定があるだろう」

 言葉を遮るように団長が声を上げる。その目は何かを訴えかけてくるようだった。そこでピンときた。

「ありました。最近旧街区の方でよからぬ噂が立っているようで。そちらの巡回に行ってみたいなと」

「なるほど。では同行しよう。1人で巡回するより2人で巡回した方が気づきも多いだろう」

 団長は『旧街区へ行く』とメモ書きを残すと我先に部屋を出ていく。その姿がなんだか遊び盛りの子供のようでほほえましくなる。

「置いていくぞ」

 そんな声が聞こえてきた。

「今行きます」

 そう返事を返して走りだす。子供はしっかりと見張っていなければ。遊ぶ理由できた子供はどこまでも奔放だ。ケガをせぬようしっかりと見守ろう。

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理由がないとダメみたい シヨゥ @Shiyoxu

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