4-3 薄暗い路地
デンファレは角を曲がる度に先を警戒するように移動して、トールは警戒を表に出さないようにデンファレについていく。デンファレが角からそっと顔を出して、ロトのような後ろ姿を折っていく。そして、突いたのは路地の中の広い空間。しかし、その場所は薄暗い。ロトはその真ん中を歩いていた。そして、彼の向かう先にはいかにも俺たちは悪者だと言わんばかりの見た目と態度をした一団がいた。彼らは全員小さな背丈のロトを見ている。デンファレはすぐに跳び出そうとしたが、トールがそれを引き留めた。前のように一人で先走られては困るのだ。
「よぅ、ロト。今日は俺たちの相手をしてくれんのか?」
悪者の一段のリーダー面している奴が立ち上がり、彼の前に立った。ロトとは違い巨体。茶色の体毛で、馬の顔を持っていた。馬獣人と言ったところだろう。足は馬の物だが、手はしっかりと指が付いている。相手は今にもロトに殴りかかりそうだ。ロトは彼の目を見つめているようだ。そして、相手はついに彼に腕を振り下ろす。ロトはそれをしゃがみでギリギリ躱した。
「いきなりやるか、普通」
ロトはその拳を見ても、そんなモンクを呟くだけだ。そして、相手のその攻撃を皮切りにロトはそこにいた者たちに囲まれた。
「これだけだったか。お前のとこは」
「ロト、お前のせいだ。お前にやられて逃げてっちまったんだ」
「腰抜け、ってことか」
その瞬間、馬獣人は再び、ロトに向かって拳を突き出す。先ほどとは比べ物にならないパンチ。先ほどの攻撃が冗談に思える。そして、ロトはそのパンチを腕で受け止めていた。
「ぬるいパンチだな。馬のくせによ」
ロトはその攻撃に一歩も引いていない。痛みがないはずがないだろうに、平然としている。相手はその煽り文句に、激昂する。パンチが休みなく、彼に降り注いた。打撃音が続く。デンファレも涙目になって、トールを見ている。もう出て行ってもいいでしょ、と訴えている。だが、トールは彼女の要望を許可しない。強い力で彼女の肩を抑えて、飛び出していかないようにしていた。
「ははは、そんなもんかよ。ふざけんなっ」
ロトの声だ。その声と同時に、馬獣人の巨体が浮き、三メートルほど飛んで転がり、彼らの座っていた木の箱に勢いよくぶつかり崩れた。馬獣人は腹を抑えて、呻いていた。
「ったく、いつまで経っても弱いまま。何が路地裏のキングだよっ」
呻いている馬獣人に近づいていき、相手の胴を蹴り上げる。うめき声が聞こえ、その巨体が再び、宙へと飛んだ。そのまま、ロトの蹴りが再び、相手に突き刺さる。再び、吹っ飛ばされ、先ほどとは違う壁にぶつかった。その際に、周りにいた他の獣人が巻き込まれ吹っ飛んでいた。
馬獣人は蹴りの衝撃が強すぎたのか、微かな息をしているだけで、もはやうめき声も出ていない。たった二撃で巨体を完全に沈めた。喧嘩としては初撃だけで決着していたようなものだろう。
ロトは馬獣人を見て、近づいていく。デンファレはその衝撃に言葉が出ない。ロールもまさか、喧嘩して締め上げている側だとは思わず、驚いていた。小さな体にあの力、デンファレよりも強いだろう。
「もうやめてくれ。死んじまう」
馬獣人の舎弟の一人が、ロトの腕を掴んで懇願していた。ロトは我を取り戻したかのように、辺りを見回して自分に向けられている、自分に恐怖している視線を見て、にやりと笑った。
「俺はまだやりたりないな。誰が相手をしてくれるんだ?」
「あんたに勝てる奴なんてこの裏路地にゃいない! もう解放してくれよ、頼む」
「何言ってるんだよ。今までお前たちがやってきたことだろ。される側になってやめてくれなんて聞けると思うか」
視線だけで圧倒している。不良たちはもはや反論する戦意もない。落ち込んだように下を向いて、嵐が去るのを待っているかのようだ。
「なんだよ。つまんねぇ。じゃあな」
ロトが入ってきた路地に戻ろうとしたその瞬間、デンファレたちがいるのに気が付いた。視線が合ったのはデンファレだ。視界内にトールがいるのも見えた。
「なんでここにいるんだよ」
「ろ、ロトが見えたから、危ないかもと思ったのよ」
「しかし、危険なのはロト、貴方の方でしたね。弱者をいじめてストレス発散ですか」
ロトはトールの言葉にかみ合う歯に力が入る。こんな世界になって、弱者を虐げていたのは今倒れている馬獣人などの不良たちだった。それを一人で殴り飛ばして解決したのがロトだ。そのことは不良たちしか知らない。そして、ロトはこの不良たちが再び、いじめをさせないために毎日、痛めつけてやっているだけだ。
「俺が、皆を救ったんだ。こいつらがみんなから食べ物を奪ってたから、成敗しただけだ」
「そうですか。それにしてはやりすぎではないですか。人殺しになりますよ」
「うるせぇよ。街に来たばかりの人間の癖に。弱い奴が俺にたてつくな!」
「では、力量があればいいのですか。それくらいなら相手になりましょう」
トールはわざと挑発するようなことを言って、ロトを怒らせる。デンファレはいつもと態度の違うトールを不思議そうに見ている。どちらかと言えば、こういうことには首を突っ込みたくないはずだろうに。
トールは一歩前に出て、ロトの正面に立つ。彼を見下ろし、威圧した。
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