第235話 エピローグ

 イブラルタル沖海戦。

 人間と魔王軍の最後の決戦はそう名付けられた。


 ギルド協会からの公式発表はこうだ。

 両陣営の総力が投入された最終決戦は、両軍におびただしい犠牲を払わせる結果となった。

 そして、両軍の最終決戦時、魔王はメフィストの傀儡であったことが判明した。


 ギルド協会は、魔王軍穏健派とその場で手を組み諸悪の根源だったメフィストと魔王の討伐に成功した。その後、魔王軍の臨時代表となったパズズは人類との和平案を受託する意思を示して現在、交渉の場についている。


 ギルド協会も、会長ジジを筆頭に、残存艦隊の指揮官・ヨシフ官房審議官、ウラジミール南方支部長、そしてニコライ、ギルド協会海軍の象徴だった戦艦"アドミラル・イール"など名だたる幹部や戦力を失い薄氷の勝利をつかみ取ったのだ。


 こういう筋書きだ。

 最終的に、会長の計画は秘匿ひとくされた。会長とニコライは魔王との最終決戦で俺の活路を開くために戦死したことになっている。ここは政治的な問題も多いからな。


 俺とともに会長を止めたパズズは、重傷を負いつつも奇跡的に助かったが、ニコライはどうすることもできなかった。すべての力を使って俺の道を開いてくれたからな。本当の意味でニコライは勇者になったんだと思う。ニコライは満足そうに笑いながら天に旅立ったんだ。


 現在、世界はギルド協会を中心に復興へと向かって動き続けている。協会はミハイル副会長が戦死したジジ会長の後任に昇格した。今やギルド協会会長職は、世界政府の頂点のような役割を求められている。


 問題は山積みだ。魔王軍との和平が成立しても、長い間の戦争をしてきた両者の心の溝は埋まっていない。なにかの拍子に、どちら側の過激派が蜂起することだってありえる。世界各地に隠されたメフィストの因子も封印しなくてはいけない。


 だけど、両陣営を縛り付けていた戦争は確かに終わったんだ。いまはそれを満足して、人々は笑いながら生活をしている。この平和が永遠に続くように俺たちは頑張るだけだ。


 ドアにノックする音が響いた。そろそろ時間だな。


『アレク? 花嫁さんがお待ちですよ』

 ナターシャの方を手伝ってくれてエカテリーナは俺に笑いかける。


「ああ、今行くよ」


 俺は式場へと移動した。


 ※


 式場は冒険者仲間や親族たちの笑い声で包まれていた、

 ひとりだけ、この後の披露宴で友人代表あいさつをすることになっているボリスが緊張して顔が真っ青になっているけどな。ケガの回復は順調らしい。ボリスには長生きしてもらわないといけないからな。


 ナターシャは、伯爵と一緒にゆっくりと俺のもとに歩いてくる。

 純白のウェディングドレスとヴェールが、彼女の美しさを引き立てていた。


『綺麗だな』

『まさに現代の聖女様って感じだ……』


 会場の誰もがナターシャを見て息をのむ。その神秘的な美しさに魅了される。


 マリアさんが神官として俺たちの誓いの立会人となってくれた。


 そして、ナターシャは俺の横に立つ。

 ついにこの瞬間がやってきた。


「どうですか、あなた?」

 ナターシャはおどけた顔で俺をからかう。


「すごくきれいだよ」


 俺の両親の形見の指輪が結婚指輪になった。俺は別のものを買おうと言ったのに、ナターシャが強く主張してそうなった。あいつなりの優しさなんだろうな。


「幸せにしてくださいね」


 誓いを立てた後、ナターシャは小さな声を出す。


「もちろんだ」


 俺はそう笑いかけた。

 死んだ父さんや母さん、ニコライたちもそばにいてくれている気がする。


 人の善意の温かさに包まれながら、俺たちは神前で誓いのキスをする。

 

 これからも続く永遠を誓って……(完)


 ※


―後世の歴史書―


 史上最高の冒険者は誰か?

 その問いについて、我々は300年経った後でも、彼の名前を上げるだろう。

 

 アレク・フォン・ローランド。


 史上最高の冒険者、神に最も肉薄した男、悪魔殺しデーモンスレイヤー、勇者の右腕、戦争を終わらせた男ピースメーカー


 彼を讃える異名はいまだに多く伝わっている。


 彼は、歴史上唯一の魔王軍最高幹部3体と魔王本人と戦い勝利を収めた人間である。彼は若干15歳で盟友のニコライと旅に出て、17歳の時に西の大陸の王都"バル"攻防戦で魔王軍西方師団の壊滅に成功し、19歳の時に魔王軍幹部をクラーケン討滅したことで、ニコライと共に史上最年少のS級冒険者に到達した。


 ニコライとのパーティー解消後は、21歳でギルド協会最高幹部の官房長に抜擢されて、大賢者・ジジ、不敗将軍・ミハイルとともに三頭体制トロイカを形成した。この時代がギルド協会の最盛期とされ、史上最高の体勢ともいわれる。


 彼は数多くの史上最年少記録を塗り替えた。前述のS級昇格、ギルド協会最高幹部就任、伝説級昇格、副会長就任、会長就任・・・


 ギルド協会最高幹部就任後も、


・魔王軍幹部・ヴァンパイア討伐

・テロ組織「邪龍教団」壊滅

・南海戦争における魔王軍主力艦隊及び魔王軍最高幹部リバイアサンの撃破

・マッシリア王国クーデター鎮圧と魔王軍最高幹部メフィスト撃破

・始祖文明の残したダンジョンの踏破

・魔王軍最高幹部ハデスの討伐(ゴンケルクの決闘)


 と数々の功績を残し、伝説級冒険者に昇格した。存命のまま伝説級に昇格した4人の1人となる。


 彼の偉大なる功績は、後世の歴史家からは「アレク氏はあまりにも飛びぬけた結果を残しすぎている。アレクという冒険者はギルド協会が戦意高揚のために作った偶像であり、複数人の冒険者の功績を混ぜ合わせて作られた架空の人物ではないか」と疑問が生まれたこともあったが、当時描かれた複数の歴史史料から彼の存在は確認されており、その俗説は否定されている。


 そして、魔王軍との戦争の最終局面となったイブラルタル沖海戦において、魔王軍主戦派の魔王とメフィストを討伐し、魔王軍穏健派を率いていたパズズ氏と協力して戦争を終結させた。


 戦争終局後はギルド協会副会長に昇進し、同時に学生時代からの恋人であり、公私ともに長年のパートナーであったナターシャ氏(S級冒険者)と結婚。2人の子供をもうけている。


 戦争終了後の彼の詳細な足取りは、長年謎に包まれている。

 世界各地にアレク氏来訪の伝承が伝わっており、戦争継続を望む人類・魔族の過激派の制圧などをおこなっていたものと考えられている。


 ミハイルの現役引退後は、ギルド協会会長の座を継承し12年(3期)務めた。冒険者というよりも政治家だった前任者と比べると、あくまで一冒険者として振る舞っていた。実際、彼は現場を好み、中央の実務は妻のナターシャに任せきりだったともいわれる。


 彼は、数多くの功績によって各国から叙勲されて「アレク・フォン・ローランド」という名前を賜ったが、それは公式な場でしか名乗らず、アレクと呼ばれることを好んだという。


 アレクは、自分のことを語りたがらない控えめな性格だったとされており、彼の人となりは妻のナターシャや側近だったS級冒険者のボリス(のちに副会長)の記録によるところが大きい。


 副会長時代の彼の足跡が謎に包まれているのは、公的行事にほとんど姿を見せずに世界を旅していたためとされる。


 歴史上屈指の冒険者ながら、彼の本質は謎に包まれている。ただ、幸運なことに、大賢者ジジから「世界すら滅ぼしかねない」と言われていたその実力を戦争後は発揮する機会がなかったことだ。


 ギルド協会会長職を退任後は、妻と共に静かな余生を過ごしたという。


【後書き】

(作者)

ご愛読いただきありがとうございました。

読者の方々の温かい応援のおかげで幸せな時間となりました。完結できたのは読者の方々のおかげです。本当にありがとうございます。


たまに、この続きにイチャイチャ系の番外編を更新する予定なのでそちらも引き続きお楽しみください。


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