第234話(最終回) アレクとナターシャ

 俺たちは一度グランド・アレクで情報を交換した後、一気に上昇した。


「パズズ、あとどれくらいで魔方陣は目標高度に到達する?」


「あのスピードなら10分くらいだ」


「よし間に合うな、見えて来たぞ、アレク!!」


「一気に決めるぞ、3人共!!」


「「おう!!」」


 俺は、魔方陣に向けて古代魔力をぶつけた。大きな爆発が発生するが、魔方陣は無傷だった。


 今のは俺ができる最強の攻撃だった。それすらも無効化するのか……魔方陣の上昇は続いている。こうなったら数の力でこじ開ける!


 俺はできる限りの速さで魔力攻撃を続けた。ここでナターシャを失いたくない。世界も救う。

 その気持ちだけに支配されていた。


 だが……


 ナターシャたちを囲っている魔方陣は崩れなかった。


「なんて固さだ!」


 俺たちの攻撃に反応して、魔方陣は赤く光った。


 攻撃に専念していた俺は反応が遅れた。魔方陣からは強力な魔力が解き放たれた。


 やられる。直撃を覚悟した瞬間、俺の目の前にパズズが割り込んだ。


「パズズ!」


 パズズは俺をかばって魔力の直撃を受けた。

 奴はゆっくりと力を失い落ちていく。


「アレク。お前しかこれを解決できない。やってくれ。俺たち魔族のためにも、人間のためにも……俺はお前たちにすべてを託す。世界の可能性を……絶やさないでくれ」


 そうだ、やっと戦争が終わったんだ。魔族との和平も進むはずだ。もう、俺のように戦争によって親を失う子供は生まれない。その世界を続けるためにも……


 俺は会長を止める!!


 パズズの体を張ったガードを見て、ニコライが叫んだ。


「アレク! あとは俺に任せろ。俺が活路を開く。お前は魔方陣に突入して、会長を止めてくれ。とらわれのお姫様を助ける騎士役は任せる」


 だが、いくらニコライでもあの魔方陣を突破することはできないはずだ。よほどの無理をしなければ……


 まさか……


「さすがに、勇者様の全生命エネルギーをかけた一撃なら結界くらいやぶれるよなぁ」


 生命石の剣にニコライは全力を注いだ。


「やめろ、ニコライ!! お前の体が持たない」


「いいか、アレク。俺は、臆病者だったんだよ」


「そんなことはない。お前は勇者だ」


「違う。俺はお前にずっと嫉妬していた。ずっと怖かったんだ。いつかお前が俺を追い抜く時が来るんじゃないかってさ。ずっとおびえていた。だから、お前を傷つけてパーティーメンバーから追放した。エレンに心の弱さを利用された。その結果が、メフィストの復活だ。今回、最悪の事態に陥ったことには、俺にだって責任がある。あの時は逃げてしまったけどな、今度は大丈夫だ。俺は世界の人たちを裏切ってしまった、だからこそ、今回は逃げない」


「ニコライ」


「俺は自分の責任をまっとうする!!」


 ニコライの全力攻撃は、今まで見たことがないくらいの巨大な斬撃になる。

 オルガノンの裁き。あいつの最強奥義が強固な魔方陣の障壁を破壊した。


「アレク!! この攻撃はお前とボリスと俺がいたからできたことだ。お前たちと冒険できて、最高に楽しかったよ。ナターシャさんのことを離すなよ!!」


 相棒は、そう言い残してゆっくりと落下していった。


 俺は全力で魔方陣に突入した。


「先輩!!」

 ナターシャの声が聞こえた。会長の攻撃が俺に襲いかかるが、すべて無効化していく。


「これが神の存在領域か」

 会長が発する雷は俺の体に届くまでに無効化されていく。


 ついに俺の剣が会長をとらえた。会長は魔力を込めた体でクロノスの剣を防ぐ。


「会長、やっぱりこの前の決闘では手を抜いていましたね?」


「ああ、そうじゃよ。だが、もうすべてを出しきってしまっても構わない。いくぞ、アレク。これがわしの生涯最後の戦いじゃ」


 俺たちは数分間の間にいくつもの技を繰り出した。会長は、すでに体の限界など気にしていなかった。


《主様、クロノス。最後は私に決めさせてくれ》


 エルは俺にそう呼びかける。


「わかったよ。頼むぞ、エル!」


《あの人だけは、私が止めてやらないといけないんだ》


 絶対零度の剣を見て、会長は一瞬、判断が遅れた。そして、それがこの戦いの終着点だった。俺の魔力剣が会長の体をとらえていた。


「みごとじゃ、アレク……そして、エルよ。これでわしの戦いはやっと終わる。愛しているぞ、ミランダ……」


 会長は最期にそう言い残すと動かなくなった。

 それが、伝説会長の最期だった。


 あとはナターシャと帰るだけ……


 しかし、ナターシャの場所に向かう前に、先ほど死んだはずのメフィストが俺の前に立ちふさがる。


『何を驚いているの? これがメフィスト因子よ。私は何度でもよみがえるわ。それを防ぎたかったら、ここで世界の崩壊を起こすか、あなたが神の存在領域を暴走させればいいのよ』


「その必要はない。世界はお前を求めていない」

 俺は自分の直感に従い、メフィストに向かって手を伸ばした。

 メフィストの体は光りはじめた。


『なにをするつもり』


「俺にはわかる。お前にとっては滅びも救いに過ぎない。お前が本当に恐れることは、永遠の孤独だ。お前はひとりになりたくなくて騒いでいる赤子みたいなもんだよ。嫌なことがあれば、おもちゃを壊すな」


『なに、これは……』


「俺は絶対にすべてのメフィスト因子を見つけ出す。そして、お前にしていることと同じことをしてやるよ。完全体に戻る前のお前ならそれに抵抗はできないだろう?」


『まさか、あなたは本当に神の領域に……』


「俺は人間だ。古代魔力文明が、この力をどう考えていたのかは知らない。知りたくもない。ただ、お前を崩壊させることができたらそれでいい」


『私を別の世界に送るつもり!?』


「その世界にお前しかいなければ、お前はもう壊すおもちゃを作り出すこともできないだろう」


『そんなことをされたら……私は死ねないのよ。永遠にひとりで生きろって言うこと? いやよ、いや。それを避けるために、私は策をめぐらせてきた』


「なら、試してみろよ。それがこの瞬間だ」


『いやだ、助けて。魔王、リヴァイアサン、ハデス……いやああああぁぁぁぁあああああ』


 メフィストは今まで散々利用してきた者たちの名前をつぶやいていた。


 神の審判は下った。目の前にいたメフィストは俺たちの世界から消し去られた。


 そして、俺はナターシャを迎えに行く。


 ※


「あ~、先輩だ。やっとみつけた~!」


 ※


 再会した時とは、逆だな。


「やっと見つけたぞ、ナターシャ」


「そんなことを言っても別れてからまだ、そんなに時間が経ってないじゃないですか」


 ナターシャは笑う。

 青い空に包まれながら、俺たちは再会のキスをした。


「これで終わりですね」


「ああ、そうだな」


「でも、まだまだ忙しいですよ。戦後処理や私の野望は続きますから……」


 少しずつ魔方陣は崩壊していく。俺はナターシャを背負いながら大空へと飛び立った。魔王の体はゆっくりと落下していくのが見える。魔力の流れは全く感じられなかった。


「あのさ、ナターシャ」


「なんですか?」


「こんなところで言う話じゃないかもだけど?」


「はい?」


「ナターシャが居なければ、ここまで来ることができなかったよ。ありがとう」


「感謝するのは私のほうですよ。あなたがいてくれたからこそ、私は世界の温かみを信じることができたんです」


「それとさ、かなり回り道しちゃったけど……」


「えっ?」


「ずっと、お前のことが好きだった。学生時代から、ずっとだ。だから、結婚してくれないか?」

 俺は覚悟を決めてプロポーズをした。緊張しながらナターシャの答えを待った。


「私の気持ちはずっと前から決まっていますよ。もし、先輩がいなくなったらその後はずっと一人で生きていくつもりでした。もちろんです。私はあなたのことを世界で一番愛していますよ」


 俺たちは誓いのキスをした。そして、ゆっくりと仲間たちが待つ地上へと降りていく。

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