第217話 神の存在分析

―会長視点―


 わしはアレクの戦いぶりを遠くで見守っていた。ボリスもアドニースの剣を使いこなしている。まだ握ってから1日も経っていないのにのぉ。


 剣など久しく握っていない儂の血を熱くする。


 そして、アレクが覚醒かくせいした。


 ネクロマンサーも善戦したがしょせんは他人の実力を借りて戦うことしかできない存在だ。神の存在領域に達してしまったアレクを止めることができるわけがない。仮に思考力がある伝説級冒険者ならまだ戦うことができる余地もあったかもしれないが。


 ついに、儂の理想を叶えることができる存在が生まれた。すべてを犠牲にして刻まれた儂の呪いを超克することができる者があそこにいる。


 もうすぐだ。もうすぐ終われる。


 死霊使いは最後の抵抗をしている。ゾンビと毒針を使った波状攻撃。


 だが、神の目の前においてそんな小細工は意味をなさない。光魔力を極限まで高めた"神"に人間のレベルでは戦うことすらできない。


 神の意にそぐわない存在は、すぐに抹消される。あまりの高濃度に達した魔力は近づく脅威を簡単に消滅させるのだ。


 そして、時間が経つにつれて高濃度の魔力は新しいアレクに仕える6体の天使を生み出した。光魔力使いの中でも最高レベルまで鍛え上げることができた者しか使えないとされた伝説上の存在がついに確認された瞬間だった。


「あれが六神か」


 光球はまるで生きているかのようにアレクの周囲を動き始める。自律的な意思を持ち、神に近づく存在を自動的に排除する最強の護衛システム。


 今のアレクなら一刀で伝説級冒険者を無力化するだろう。魔力の強化によってその力はもう他の追随を許さないところまで来ていた。


 イールを囮に逃げようとしていた死霊使いも光球の天使に捕捉されている。

 矢に姿を変えた光球によって排除される死霊使いは、最期の最後で儂の存在に気がついたようだ。


「はかったな、ジ――」


 依頼主わしの存在に気がついたあいつは、断末魔をあげていた。ああ、キミはよくやってくれていた。アレクの力を最高に引き出してくれた。それだけで十分な働きだ。だが、影の評議会。お前たちが悪いのだよ。


 わしをいつまで番犬だと過信していたんだ。アレクが覚醒した今、あんたらのような時代遅れの老人たちはもういらない。


 影の評議会を脅かす可能性があったギルド協会の会長に儂をつけただけですべて掌握していたと判断していたのがいけないのだ。お前たちを本当に利用していたのは私なのだからな。


 お前たちがくれた権力の座を使ってすべての準備を整えた。

 すべての計画が成就するのはもうすぐだ。


 邪龍に受けた古傷がうずく。


 ※


 翌朝、ギルド協会には一つの報告が伝えられた。魔王軍、動くと……

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