第211話 幸せな朝

―アレク視点―


 目が覚めた。昨日は夜遅くまでナターシャと思い出話に花が咲いてしまった。

 だから、少し寝坊した。朝に強いはずのナターシャもまだ寝ている。


 同じベッドで寝るのに緊張感があったはずなのに告白して何度も同じベッドで寝ているからあの緊張感も消えてしまった。


 ナターシャは家族とも一緒に寝たことがなかったらしい。そんなエピソードを聞いたら余計に愛おしくなってしまう。


 だから、できる限りふたりきりで眠れるときはふたりで眠るようにしている。


「あっ、先輩? 今日は早起きですねぇ」


 ナターシャは赤子のように安心しきった顔だった。


「お前が珍しく遅かっただけだよ」


「えっ、朝ご飯を作るの手伝おうと思っていたのに……」


「遅いといいつつもまだ8時だ。叔父さん叔母さんは朝が弱いからこれでも早いくらいだ」


「よかった。これでまだ働き者だと猫がかぶれます」


「ナターシャは普通に働き者だと思うけどな」


「もう、ありがとうございます」


 ナターシャは恥ずかしそうに苦笑いする。


「ずいぶんと幸せそうだな、ナターシャ?」

 俺はからかう。


「そうですよ? だって、朝から世界で一番好きな人に褒められたんですからね。これで楽しくない女の子がいます? そうだ、先輩? 私の好感度を上げてくれたお礼しますから逃げないでくださいね?」


 ナターシャは俺の肩に手を回すと、そのままゆっくりと顔を近づける。


 そして、俺たちは今日初めてのキスをした。


「お礼のキスです。改めて、おはようございます! 先輩?」


 ナターシャの甘い香りに俺は朝から包まれる。


「ああ、おはよう」


「いまから美味しい朝ご飯を作ってきますからちょっとだけ待っていてくださいね」


 いつもの朝なのにナターシャの顔を見るだけで幸せな気持ちになる。


 俺はお返しにナターシャにキスをした。

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