第210話 ミハイルの切り札
―ギルド協会海軍
パズズと人目を気にせずに話をしなくてはいけない。だから、この場所を選んだ。
ここはギルド協会海軍工廠にある新造艦の艦長室。
工廠はギルド協会に所属する軍艦の建造や修理を行う場所だ。
関係者以外立ち入り禁止。
だから、魔王軍和平派と語り合うにはここが最適解。
ここでふたりきりですべてを話し合うことにする。どのように戦争を終わらせるかについてだ。
「やはり、決戦は回避できないだろうな。魔王軍内部を切り崩してもそれが導火線になる。パズズも同じ意見だろう?」
「ああそうだ。魔王軍はアレクと言う怪物の誕生で焦っているはずだ。ここで叩かなければさらに強くなる可能性があるアレクを放置することはできないだろう。近いうちに大きな軍事行動を起こすことは不可避だ。それについての対策を考えねばならないだろうな」
パズズと私はほとんど同じような意見を持っている。だからとても話しやすい。
「影の評議会もこの戦争が終わるまでは妨害はできないだろうな。ここで協会を妨害すれば戦争に負けることは間違いない」
「だから、戦争がはじまるまえに政治でケリをつけるつもりだろう、ミハイル? お前は悪い奴だ」
「魔族に言われる筋合いはないな。お前らはいったい何人の政治家に取りついて悪さをしたんだい?」
「そんなもの、悪徳政治家の言い訳だろ。そしてそんなことはわかっていて言ってるんだろうな、きっと。影の評議会のメンバーはわかっているのか? 先制攻撃をするにもそれがわからないとな」
「中心人物については目星を付けている」
「なるほど」
そう言って私が用意していたワインを口に含むパズズ。
そして奴は続ける。
「しかし、ミハイルも思い切った場所を用意したな。どれだけ俺を信用しているんだ? ここは軍事機密の塊だろう?」
そうここは魔王軍との最終戦争のための切り札になる新造艦だ。パズズが裏切れば致命傷になることだってあり得る。
「問題ない。すでにお前が俺たちと接触した時点で一蓮托生だろう」
魔王軍の内部対立があるのは情報局でも裏が取れている。
「そう言ってもらえるとありがたい。しかし、すごい艦だな。アレクのために作られたような設備だ」
「アレクなくして戦争には勝てない。この戦艦は、人類側最強の"アドミラル・イール級"を改造したものだ。今までの戦訓を活かしている」
「艦砲は40.6センチといったところだな。見たところ装甲には反・魔力石を埋め込んで強化している」
「アレクの地獄の業火を射出しても耐えられる主砲だ」
「まるで魔王軍との戦争後も考えているような構造に見えるが?」
「……」
「ノーコメントか。まあ、いい。平和を維持するためにも戦力は必要だと解釈しておくよ。それにしても今頃、キミたちのスポンサーである影の評議会は大慌てだろうね」
俺たちは不敵な笑みを浮かべた。
「それでどうやって魔王軍との和平を発表する予定だ。一般市民からは魔族への嫌悪感も強いだろう。仮にうまく戦争に勝てても、戦後の融和政策も難しくなる」
「ああ。王族など有力者にも協力者がいる。彼らにも助けてもらうしかないだろうな。ひとりここに呼んでいる。もうすぐ到着するだろう」
誰が来るかはわかっているだろう。
「ルーシー王国のボリス第2王子か。S級冒険者にしてアレンの盟友。適任だな。私からも彼に土産がある」
「なるほど。それはこちらの戦力を強化してくれるものだろうね。それは楽しみだな、パズズ?」
「"
「メフィスト対策はあればあるほどいいからな」
順調だ。あとはスポンサーたちをどう対処するかだ。
向こうは今ごろ大慌てだろう。
ギルド協会が失われた歴史を掌握し、魔王軍の和平派である魔王の息子も陣営に引きずり込んだ。いままですべての情報を独占し世界を陰から操ってきた
大混乱しているはずだ。いい気味だと思う。
※
―影の評議会―
「これは弱ったことになったぞ」
「伝説級冒険者といえども戦艦ジェネラル・タレスが守る海域をひとりで突破できるなど予想外だ」
「しかし、実際に起きてしまった」
「左様。ミハイルのもとに我々が持っている天地開闢の図・正典と同じものが渡ったと考えねばなるまい」
「もう一度ミハイルが潜入してくることは想定内だった。だから、世界最強の戦艦を派遣したのだ。あれでも守ることができなかったらどうすることもできまい」
「あれを公表されれば我々の存在も公になる。そうすれば世界の支配構造は根幹から吹き飛ぶぞ」
「我々人類が魔族の土地を奪ったなど……貴族の存在意義すら奪われる。我々の特権もな」
「だが、ミハイルを拘束することはできない。魔王軍との決戦が迫っているこの状況であの有能な指揮官を排除などできるか」
「そもそもミハイルの近くにはアレクがいる。軍をどんなに投入しても勝てるわけがない」
「こうなったら我々は潜伏しなくてはいけないな。幸いなことに評議会のメンバーはまだミハイルはわかっていないだろう。再起を期すために我々は地下に潜って機を見るしかないだろうな」
「しかたあるまい」
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