第195話 パズズ

「(……)」


 聖龍は俺の質問に黙ってしまう。


 ナターシャは納得したように話しかける。

「そうですよね。私たちがピンチになったタイミングで彼の声が聞こえて救われた。つまり、彼もこの状況を確認していたということですね。そして、パズズが聖龍・オシリスの封印を解き放ったということは……二人は繋がっている可能性が高い!!」


「(残念ながらその質問に答える権限を私は有していない)」


 オシリスは苦しそうにそう言った。

 権限を有していない?

 まるでパズズがオシリスの上位存在のような口ぶりだな。


「そうか。じゃあ、お前はパズズについては何も答えられないということか?」

 俺が問いただすと……


「(そう考えてもらっていい)」とオシリスは答える。


 せっかく手掛かりに近づけたと思ったのに残念だ。

 だが、かなりの情報をつかむことはできた。

 これなら副会長も納得するだろうな。


 俺たちが引き返そうとすると――


「そう、聖龍をいじめないで欲しいな。僕の自信作なんだよ?」

 ひとりの若い男の声が聞こえる。俺たちの後ろからだ。


 まさか……

 こんなところにいる男なんて……


 ひとりしか考えられない……


「やあ、アレク、ナターシャ! お噂はかねがね! やっと会うことができてうれしいよ」


 細身の体と紫色の肌。ひょろっとした男だが、周囲にあふれる魔力量は膨大であり、こいつがタダ者じゃないことを証明している。


 ※


「(利害が一致しているからだ。ここでアレクが死ぬことは許されない。まさか、メフィストが生命神アドニースのカケラを投入するとは思わなかった。アレクが絶体絶命の状況で神の存在領域で暴走が発生することは避けなくてはいけない。運がいいことにここはグランドゼロだ。古代魔力文明の遺産が眠っている。そして、キミならその遺産を使いこなせるだろう。それがアドニースのカケラを攻略する唯一の可能性だ」


「(さあ、契約をしよう。祈れば古代魔力文明の切り札はお前に従う)」


 ※


 ナターシャが聞いたという言葉を思い出す。


 だと思ったぜ。ここまで正確に情報を導き出しておいて遠くにいるわけがねぇよな、パズズ。



「さて、一応形式的にあいさつをしておこう。ナターシャにとっては二回目だが許してくれ。我が名はパズズ。魔王の息子にして、すべてを終わらせるために動いている者だ。お前たちと利害はメフィスト打破という一点で一致している」

 

 すべてを終わらせるための最後のピースが俺たちの目の前で笑っている。

 

 魔王軍和平派の頂点は、優雅に俺たちと握手した。


 ※


「さて、立ち話もあれだろうからどこかに座って話でもしようか? その前に――」


 パズズは大地から何かを拾った。

 その様子に警戒してナターシャは問いかける。


「それは?」


「これはさきほどの魔王父上のカケラの本体だ。コアと言ってもいいかな」


 赤い宝石のようなものを俺たちに投げ渡す。パズズはそれについて笑いながら説明する。


「それがカケラの正体であり、古代魔力文明の遺産のひとつ"生命神アドニースの宝玉"だよ」


「これが魔王のカケラの本体か……」


「そう。だけど、カケラになる宝玉は3つある。そのうちの2つは魔王軍が保有していた。もうひとつは、伝説級冒険者イールに討伐された"叡智神メーティスのカケラ"。それは再生力は劣るが自分で思考ができるカケラだった。今回のように破壊と再生を繰り返すような野蛮なタイプじゃなかったんだよ。カケラによっていくつも特徴があるんだ。それを象徴する神様の名前が付けられている」


生命神アドニース叡智神メーティス――もうひとつはなんですか……?」


「ナターシャはせっかちだな。だが、それは的を射た質問だ。聖火の神ヘスティアーの宝玉。それが最も重要な宝玉だった」


「聖火の宝玉……」


「ああ、聖火の宝玉は古代魔力文明の最高傑作だった。魔力の無限増幅機能を持つ宝玉だったからな」


「魔力の無限増幅だと!?」


 それは夢のような能力を持った宝玉だな……

 永遠に魔力を使えるということは、あらゆる活動の幅を広げる。


 夜は常に明るくなるし、魔力を使った移動も永続にできる。

 それが古代魔力文明の発展を支えたのか……

 すさまじい魔力消費を誇る光魔力が普通の世界だったというのも納得できるな。


「そうそれが魔力文明を支えた魔力炉の動力だったんだ。それが文明を崩壊させたのは皮肉だがな……さて、この地下に私がかつて使っていた研究所がある。地下にあるから比較的に形が残っているんだ。そこで話をしよう……」


 俺たちはゆっくりと地下へと降りる。


 椅子と机。よくわからない魔力道具の残骸がころがっていた。


 研究室と言っていたな。パズズは研究者か?


「座ってくれ。ここでゆっくり話をしよう」


 罠の可能性が皆無ではないが、ここまで話すリスクを考えるとパズズは味方の可能性が高い。


「たぶん、キミたちが知りたいのは失われた歴史、魔王の正体、そして、なぜ私がメフィストと対立しているかだな?」


 俺たちはうなずく。


「私はキミたちと協力したい。たぶん、魔力通信を使ってここでの会話をキミたちの指導者にも送っているんだろう。その人は信用できるね?」


「ああ。その人は、お前と手を結んで戦争を終わらせたいらしい」


「そうか。よかった。まさか、魔王軍ではなく人間側に自分の理解者がいるとは……本当に皮肉だ」


 自嘲気味に笑いながらパズズは口を開いた。

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