第191話 世界の破滅

 ローブを着た異形の悪魔たちは動揺している。


「どういうことだ。この中で生まれるはずの生命体は2つのはずだぞ!?」

「魔力炉は制御下においているのアンダーコントロールか?」


「天界文書にはこのような状況は想定していないぞ!!」


「炉に繋がる緊急遮断弁を落とせ。非常事態だぞ」


安全装置インターロック作動しません」


「多重防護安全装置もです」


「状況を冷静に報告しろ!!」


「魔力炉、完全に暴走中」


「どうにか、制御を取り戻せ」


「第3の生命反応巨大化します。これはまさか――人工悪魔・メフィストの波形と酷似しています」


「まさか、過激派が関与したのか?」


「炉内のメフィストを排除しろ」


「メフィストに仕掛けられた自爆コードの許可を!!」


「許可する」


「ダメです。信号拒絶されました」


「このままでは……炉が崩壊するぞ!!」


「内部の魔力指数が反転しました」


「やばいぞ。これでは暴発する」


「巨大魔力反応が発生。このままでは危険です。魔力炉崩壊まであと1分」


「総員退避」


「無理です。300メガトン級の大爆発です。衝撃波だけで文明は崩壊します。逃げ場なんてありません!!」


「こうなったら少しでもいい。衝撃波を抑え込め。被害を少しでも抑え込む」


「了解!!」


「魔力障壁を3重に展開」


「魔力反射システムも構築できました」


「神になろうとした傲慢ごうまんがこの結果か……」


「完全にメフィスト一派にやられた」


「魔力炉の生命反応、さらに増加します」


「新たなる生命のいけにえになるのが、まさか創造主とはな」


「メフィストたちは何をしようとしているんだ」


「たぶん、己の快楽を得るためだろうよ。あいつの思考エンジンは他者の苦しみと崩壊が最高の喜びらしい」


「そんなものの力を借りようとした我らが愚者だったな」


「制御棒稼働。無理やりにでも威力を抑え込んでやる」


「クロノスの剣がここにあればすべてを解決できるのに……」


「崩壊予測時間まであと10秒」


「魔力炉内の中央に高エネルギー反応です」


「はじまったな」


「ああ、ここで一つの文明は終わり新しい生命が創生される。すべてを無に帰した後に、ここは彼らの楽園になるだろうな」


「魔力炉の崩壊。衝撃波来ます!!」


 ※


 その言葉を最後に映像は完全に失われた。


「でもね、これだけじゃないわ」


 エレン=メフィストは映像を続ける。


 更地となった大地からは産声が聞こえる。

 俺たちがよく見慣れた生命体がそこに生まれた。


 人間だった。魔力炉があった場所から複数の人間たちが生まれて歩きはじめている。


「そうよ。この光景が……あなたたち人間という種族が生まれた瞬間。そして、創造主殺し=神殺しの原罪の運命よ」


 エレンは不敵な笑みを浮かべていた。


 ※


「俺たち人間は、お前たちが介入した魔力炉の暴走で生まれた新しい生命体なのか……」

 俺が映像の中の結論を導くとエレンは笑いながら「大正解」と言う。


「そうよ。あなたたちは本来は魔族のしもべになるべき存在だった。でも、魔力炉の暴走で従属するべき存在はいなくなってしまったのよ。そして、あなたたちは地上の支配者になったの」


「じゃあ、なんで魔王を中心とする魔王軍は生き残っているんだよ」


「彼らは私を信奉していたメフィスト一派の残党。私は彼らを導いて魔力炉の暴走の影響を受けない地下のシェルターに逃げしていたのよ。彼らはこう考えているの。あなたたちのような生命体を作ってしまった自分たちの罪を償うために自分たちは戦い続けないといけないってね。彼らには贖罪しょくざいという大義名分があるの。だから、数千年にも及ぶ魔族と人間の戦いは続いているのよ。?」


「おもしろいだと……おまえはいったい何のためにこの長い歴史を歩んできたんだ……」


「楽しいのと、私を勝手に作り出した生命体に復讐するためかな? 正直に言えば、目的なんてもう忘れたわ。私は他の生命体の苦しみを糧に生きている。それ以上でもそれ以下でもない。ふたつの陣営が争えば争うほど私は豊かになるのよ」


 ナターシャも前に出る。


「魔王軍が地下で眠りについている間に、地上では人類が繫栄した。魔王軍が眠りから覚めた時、自分たちの土地は人間に占領されていたから、戦争が始まった。それが失われた歴史ということね。それは、人類側の指導者層も不都合な真実。だから歴史が隠蔽されているということね?」


「さすがは現代の聖女様ね。賢いわ」


「そして、偽の天地開闢の図に描かれていた天使は、悪趣味なことにメフィストだったなんて笑えない。あなたがトリックスターなのね。人類側に光魔力を与えて魔王軍に対抗できるように企画した。人類側にとってはそれは見かけ上の救いだったなんて……」


 すべての発端がこいつで、シナリオまでこいつが書いていた。

 反吐へどが出るほど悪趣味な筋書き。


 こいつだけは許せない。


 俺は無言で剣を抜いた。クロノスが古代魔力文明の対メフィスト兵器ならこいつをここで滅ぼすことができるだろう。


 やってやる。


「残念。今日は決着をつけるつもりはないのよ。だから、足止めを用意しておいたわ。来なさい、魔王の欠片かけら。すべては私の計画のために……」


 地鳴りが響く。

 魔王の欠片だと!?


 まさか、ここにいるのか。あの魔王が……

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