第188話 ジェネラル・タレス
「先輩、とんでもない大物が出てきましたよ。あれは、人類側最強の戦艦です。アドミラル・イール級2番艦"ジェネラル・タレス"」
アドミラル・イール級。生きる伝説になった3人の冒険者の名を冠する人類最強の戦艦だ。
1番艦:アドミラル・イール(ギルド協会第7艦隊旗艦)
2番艦:ジェネラル・タレス(ナースル王国海軍)
3番艦:マスター・ジジ(コロール王国海軍)
副会長が海上で指揮を執るのはアドミラル・イール。
常に人類側の最強の戦艦として前線に立ってきた。
35.6センチ魔力主砲4門を備える圧倒的な制圧力が売りで、ヴァンパイア討伐作戦でも俺たちの突入が失敗した時の最後の手段としてアドミラル・イールの主砲による攻撃が用意されていた。
数百人の魔導士が乗艦していて、彼らの魔力によってとんでもない破壊力を持つ魔力大砲をぶちかませる。
つまり、地獄の業火クラスの攻撃を同時に4発。1分間に16発も撃てる最強の破壊兵器だ。
「<そこのボート。直ちに止まりなさい。止まらなければ発砲する>」
臨戦態勢のようだな。
だがここで止まるようなら俺はここにいない。
「ナターシャ。索敵の方頼めるか。魔力の流れ的にボートに直撃しそうなやつは俺が迎撃する」
「大丈夫ですが……本気ですか? あんな鋼鉄の海上要塞を私達ふたりで倒すつもりですか?」
「倒しはしないよ。あれは人類側の貴重な戦力だからな」
「じゃあどうするんですか? 外れた主砲の一撃で発生した波でもこんなボートは一発で転覆しますよ」
「波の方は氷魔法でどうにかするよ」
「まさか、片手であの怪物の攻撃を無効化させるんですか!?」
「そのまさかだよ」
俺はクロノスに魔力を流し込んだ。
右側の魔力は攻撃の無効化に……
左側の魔力は波の対処に回す。
だから、ナターシャがいてくれて助かった。ナターシャの索敵魔力は、俺よりもはるかに精度が高いからな。
だから、俺は攻撃への対処だけに専念できる。
警告射撃が飛んでくる。だが、これで引き下がらない。
警告射撃を無視したということは次は沈めるために撃ってくる。
「先輩来ますよ!! 主砲に魔力が注入されています。それも4門同時です」
さすがに向こうも警戒しているな。前回の侵入者がギルド協会というのは公然の秘密。
つまり、ここにいる不審船はギルド協会の精鋭が乗り込んでいる可能性が高い。下手な攻撃ならカウンターを受けて向こうが危なくなる。
だからこそ、全力の一撃で俺たちを無効化させようとする。
とても合理的な判断だな。
俺は剣を構えて攻撃に備えた。
「魔力充填完了。飛んできます」
ナターシャは俺の中に情報を流してくれる。今、俺たちは3つの魔力によって戦っている。
ナターシャの索敵魔力。
そして、クロノスに流し込んだ魔力と左手に構えている氷魔力だ。
後はこれでどうにかしなくてはいけない。ナターシャを傷つけるわけにはいかないんだよ。
「初弾、4発発射されました。うち中央の1発がこちらに直撃するルートです」
「わかった」
俺はクロノスの力を借りて直撃ルートに入ったものをロックオンする。
失敗は許されない。一撃で仕留める。
クロノスに込めた火炎魔力がワープして横から弾丸をとらえた。一撃で砲弾を貫く。
迎撃成功だ。
砲弾は空中で爆発する。至近距離に飛んでいた弾丸も一緒に誘爆した。
これでふたつ撃破だ。残りの2つはボートから大幅にそれて海面に着弾する。大きな水柱が海面に発生した。大幅にずれたせいで、波は俺たちには影響しない。よかった。
このまま全弾排除する。
「先輩、第2波来ます。今度は3発直撃ラインに来てますよ!!」
早いな。さすがは数百人の魔術師が乗艦している戦艦だ。
波状攻撃の間隔が短いな。だが、俺だって魔力には自信がある。
ここからは我慢勝負だ。
俺は魔力を節約するためにクロノスを使って迎撃し、砲弾を誘爆させる。さっきのは偶然だが、今回の誘爆は狙った。
近くの弾丸なら誘爆すれば一気に処理できる。だから、魔力を意図的に節約できる。
※
―ジェネラル・タレス艦上―
俺たちは必死に主砲発射準備をしていた。
あんな小さなボートを沈没させるのに主砲を何度も撃つなんて思わなかった。
「第3波、全弾撃墜されました」
「12発撃って、9発撃墜だぞ。ありえない。あのボートにはどんな神様がのっているんだよ」
「あいての魔力も有限のはずだ。こっちには300人の魔導士がいるんだぞ。数の力で押し切れ!!」
「第4波準備完了」
「よし、このまま撃て。1発はボートの後ろを狙え。わざと外して衝撃で転覆させればいい。そっちの方が確実だ」
「了解!!」
「撃てーーーー」
上官の絶叫をトリガーに主砲が火を噴く。
しかし、数秒後。
爆音とともに砲弾は空中で四散した。今回もダメだったか。だが、わざと後方を狙った砲弾は見事に海面に着弾した。大きな波が発生しボートを襲う。
「やったか!!」
皆が歓喜の声を上げる。
しかし、衝撃によって発生した波は分厚い氷によって無効化されていた。
「なんだよ、あれ……どうやったら沈むんだよ」
歓喜の声は一瞬にして絶望の声に変わった。
世界最強の戦艦が、小さなボートを倒せない。この事実は絶望しか生まれない。
「あんな非常識な防御力とか……まるで、
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