第189話 2対300

―ジェネラル・タレス艦上―


「ダメです、第5波全滅。すでに、魔導士にも魔力がなくなった者が出ています。これ以上の攻撃は不可能です」


「通常攻撃でもダメ。衝撃波の利用もダメ。いったいどうすればダメージが通るんだよ」


「あの小さいボートにいったい何人の冒険者が乗っているんだ? こっちには300人の魔導士がいるんだぞ。どんな天才が……」


「あれが現代のイージスか」


 神の楯イージス。全知全能の神が娘に与えたという最強のたて。ありとあらゆる災厄や邪悪をなぎ払う神話の存在。娘から楯を与えられた英雄はそれを使ってあらゆるものを石化させる大悪魔・メドゥーサを討伐した。そして、メドゥーサの力まで付与されたイージスはさらに強化されたものになったという。


 あの小さなボートにそれが載っているなら、それは本当だな。

 この世界最強の戦艦ジェネラル・タレスがまるで石化したかのようにあの小型ボートの前になすすべなく立ち尽くしているんだからな。


 まさに、あらゆる攻撃をなぎ払い敵を石化させる神の楯か。


 俺たちの目の前には神話の世界が存在していた。

 まるで、伝説と遭遇したみたいだな。


「体当たりする、このまま押しつぶせ!」

 艦長の声が響いた。これは最悪の状況だ。


 世界最強の戦艦がその火力ではあの小型ボートを倒せないと認めた瞬間だ。

 船乗りとしては最悪の時間だよ、まったく。


 だが、いくらなんでもあの小型ボートではこの巨艦の体当たりを喰らってはひとたまりもない。

 こんな原始的な勝ち方しかできないなんて情けないが……


 全速で戦艦はボートに突撃する。


 それは弱いものいじめのよう見えた。圧倒的な大きさで敵を蹂躙する。


「ボートに乗っている人影が見えます」


「数はいくつだ?」


「2です」


「たった2で、300人の魔導士と戦っていたのか。化け物めっ!」


「あれは、まさかアレク官房長か!?」


「なぜ、伝説級冒険者がここにいる!」


「わかりません」


「ボートに激突します!!」


「よし、進路そのまま突撃し、うわあああああぁぁぁぁぁああああああ」

 ボートにまであとわずかというところで艦が大きく揺れる。


 なにか大きな障害物にぶつかったかのような衝撃だ。


「大変です。海面が凍りついて艦が動きません……」


「なんだと!? まさか誘いこまれたのか?」


「そのようです。ボートが急速に戦線を離脱していきます」


「復旧までどのくらいかかる?」


「早くて半日です。残念ながら追跡は不可能です」


「くそ、やられた。我らは負けたんだ。たったふたりの冒険者に……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る