第181話 カウンター

 会長の魔力が高まっている。


「なにか切り札があるんだな、アレクよ。そうでもなければ、お前ほどの男がじり貧になるような選択肢をとるわけがない。おもしろいな。さすがは冒険者史上始まって以来の天才じゃ」


 会長はおどけたように笑う。なんていう死の道化師だよ。

 天才と言えばあんたじゃないか。


「何を言っているんですか。会長は、ダブルマジックの実用化や雷魔力の応用でいくつもの魔力賞を受賞しているのに……」


「わしの技術はこれ以上発展しないと思っていた。だが、お前はわしの予想を超えてくる。わしは先駆者に過ぎないよ。お主がわしの研究を完成させることができる唯一の男だ。どうして、わしがこのタイミングでお主に挑んだと思う?」


「わかりません」


「だろうな。未来あふれる若者のお前には」


「どういうことですか?」


「わしの身体は今後も衰え続けるが、お主はまだまだ成長する。ニコライの陰に隠れていたが、お前は史上でも屈指の才能の持ち主だ。未完の大器ともいえるな。わしが50歳になってやっとたどり着いた境地にお主は20代で到達している。末恐ろしいよ。ほとんどの学者はわしが人類の到達点だと考えていた。だが、お主は間違いなくそれを超える」


「買いかぶりすぎでは?」


「それはない。この百年間でわしは何人ものS級冒険者と巡り会ってきた。自分を超えるかもしれないと思ったのはお前が初めてだ。お主は自分を努力家だと思っているようじゃが、それは正解であって正解じゃない」


「……」


「わからんか。お主の潜在能力は史上最強クラスなんだ。しかし、ポテンシャルだけでは人は伸びない。他人からのプレッシャー、賞賛、うぬぼれ。潜在能力などそんなものによって簡単にダメになる。ニコライもお主と同じくらいの才能はあった。だが、努力ができなかった。アレク、お前は努力ができる天才なんだ。決して止まらない才能に誰が勝てる?」


 会長は、雷魔力を解放して臨戦態勢に入る。勝負は次の一撃で決まるな。


「ここでお前と戦わなければ、わしが勝つチャンスは完全になくなる。だから、勝算がまだあるここでお主と戦ってみたかった。人間の限界を超えるであろう男と……まだ勝負ができるうちに、な」


 会長は一気に力を解放して消えた。


 魔力の流れから攻撃は俺の右斜め後方から繰り出されることがわかる。

 会長の全力攻撃だ。防いでもダメージは受ける。


 ここが俺のタイミングだな。


「氷面鏡」


 俺は会長の出現ポイントに向かって分厚い氷壁を作り出す。そして、その壁に向かって反射魔力を仕掛けた。


 これでカウンターが決まる……


 ※


 会長の出現ポイントには横に広がる氷を仕掛けた。

 2mくらいある氷壁だ。


 氷結魔力。空気中に存在する水分を集めて氷を作るものだ。

 瞬時に壁を作った俺はそのまま反射魔力を氷にぶつける。


 これで氷は魔力反射する物質になった。


 会長の攻撃は魔力に依存する。つまり、巨大な魔力反射板に会長が触れれば会長が放出しようとして魔力は内向きに作用して会長にダメージを与える。


 あの速度を維持するくらいの魔力だ。反射して直撃すれば会長の戦闘力を完全に奪うほどのダメージを与えることができるだろう。


 会長は完全に特化型。だから、対策を立てやすかった。いや会長の戦闘力でわかりやすい戦い方をしても彼の動きに対応できるかどうかは別問題だ。魔力の流れを読む。ナターシャに比べればまだまだ発展途上だが、こうやって100年間無敗の男に王手を仕掛けることができた。上出来だろう。


 俺がひたすら守備に回っていたのも会長をこの罠にはめるためだ。もし失敗したら会長に同じ罠は通用しなくなるだろう。


 だからこそチャンスは一度切りだ。魔王軍最高幹部ですら仕留めることができなかった人類最強を倒すにはこれしかない。


 そして、その瞬間はめぐってきた。


 俺の予測ポイントに瞬間移動して氷の壁に触れた会長は魔力の反射で吹き飛ばされた。

 コロシアムの壁には巨大なクレーターが発生する。かかった。


 魔力移動と物理攻撃を補助するエネルギー。常人ならそのふたつを連発するなんて普通の魔導士では不可能だ。会長しかあんな芸当はできない。だが、その莫大な魔力はこの氷壁と魔力反射によって諸刃もろはの剣になってしまうんだからな。


 会長の膨大な魔力が逆反射して老体を襲ったんだ。

 鏡も崩壊し、魔力が籠もった破片によるダメージも追加されている。


 会長の破壊力があればあるほどこのカウンターは完璧に会長にダメージを与えることができる。


 俺は倒れた会長に近寄り剣を突きつける。

 これで勝負ありだな。


 審判を務めていた副会長にアイコンタクトを向けた。


「そこまで! 勝者、アレク」


 高らかな宣言で俺の勝利が確定する。

 会場が歓喜の声に包まれた。


「すげえ、1世紀無敗を誇った会長に会長に勝ちやがった」

「これで名実ともに協会の最高戦力ね」

「どちらも別次元すぎて何が起きたのかよくわからないぞ」


 俺は会長に手を伸ばした。


「さすがじゃな。アレクよ。わしに勝つとは……まさかここまで仕上がっているとは思わんかった」

 会長は力なく握手を求めてきた。


 俺はその手を取る。


 ここに本当の意味での世代交代が成立した。


――――

(作者)


みずにさかなさんから素敵なレビューをいただきました。

とても嬉しいです。本当にありがとうございますm(__)m

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