第178話 昇進式
俺は、協会で辞令をもらう。
「伝説級冒険者への昇進を許可する」
この一文をもらうためにずっと頑張ってきたんだな。
書類をもらった瞬間に震えたよ。ナターシャもうっすら涙を浮かべていた。
すべての努力が報われた瞬間だった。
何年も命を懸けて戦ってきた俺の努力が報われる。
「最年少記録おめでとう、アレク君」
「ありがとうございます! ミハイル副会長」
「キミには引き続き官房長として頑張ってもらうけど、ギルド協会陸上部隊の総司令も兼務してもらおうと思う。副会長と同格の役職だよ? よろしく頼むね」
「がんばります」
総司令か。副会長が海上部隊を率いているから、俺が陸上を担当するのか。もともとは、会長が兼務していた役職を俺に回してくれたんだな。
ギルド協会の役職的には……
――――
1位 会長
2位 副会長・陸海総司令(元帥待遇)
3位 官房長
4位 各局長
――――
となっている。
俺は客員中将扱いだったのに、いきなり2階級特進だ。
いいのかな?
「これで名実ともに、会長・私・アレクのトロイカ体制だね。期待しているよ」
「こき使うの間違いじゃないですか?」
「そう言うかもしれないね」
「お手柔らかにお願いします」
こんな感じで式典は終わった。俺が退院したばかりだったから無理をさせないように規模は抑えておいてくれたらしい。俺もあんまり華やかな場所は苦手だからそれも考慮してくれたんだろうな。
だが……
「なんかさっきから外が騒がしいんじゃないですか?」
俺は外の騒音に気がつく。
「おやおや、あんまり人は来ないようにしていたのに、どこでかぎつけたんだろうな。まぁ、コソコソしなくてもいいめでたい場だから仕方がないか。アレク君、皆キミを待っているよ。顔だけでも見せてあげてくれ」
「何を言っているんですか?」
「鈍感だな。キミに命を救われた冒険者がたくさんいるんだよ。ハデスをひとりで引き受けて無理をした英雄を讃えるのに、理由なんかいらないよ。マリア局長、窓を開けてくれ」
「はい! 副会長!」
マリアさんは笑顔で窓を開ける。新鮮な空気が副会長室に流れ込む。
そして……
「おめでとうアレク官房長!」
「祝・4人目の生ける伝説」
「ゴンケルクの英雄」
「奇跡の立役者」
「ありがとう! あんたのおかげで無事に生き延びることができた!」
協会の中庭の広場には作戦に参加した冒険者たちが大勢集まっていた。
俺のために……
「恥ずかしがり屋なのはわかっているけど、キミのために集まってくれたんだ。テラスで手くらい振ってあげるといいよ。もちろん、婚約者さんを連れてね」
「わかりました。行こうぜ、ナターシャ」
俺はゆっくりと恋人の手をもってエスコートする。
会場は拍手に包まれた。
※
記念式典から1か月後。
俺たちは所用で、協会本部を訪れる。
道路の補助金についての書類を提出するためだ。そこらへんはナターシャが一気に作ってくれたから問題は無いんだけどな。
事務処理能力とは本当にすごいんだよ、ナターシャ。
俺よりもむしろナターシャが協会幹部になったほうが副会長が喜びそうだ。「事務手続きを全部任せることができる」ってね。
「はい、確かに受け取りました」
事務員さんの確認も無事に終わり俺たちは副会長室にあいさつに向かう。忙しそうだから、すぐに帰るけど一応ね。
「おや、アレクじゃないか。久しぶりだのう。入院のお見舞いにもいけずに申し訳なかったな」
「会長!! お元気でしたか?」
副会長室では会長がお茶を飲んで副会長の業務を邪魔……もとい眺めていた。
「うむ、実はちょうどお主の話をしておったのじゃ。のうミハイル副会長?」
「ええ、まぁ」
「どうじゃ、アレクよ。わしとお主で史上初めて伝説級冒険者の併存状態が生まれたんじゃ。これを契機にひとつイベントでもやってはみないか?」
たしかに伝説級冒険者がふたり以上同時に存在するのは史上初めてのことだ。俺を含む史上4人しか生者の昇格者がいなかったから当たり前といえば当たり前だけどさ。
「嫌な予感しかしないんですけど……そのイベントって具体的にどんなことをするんですか?」
「多分想像通り。わしと模擬戦じゃよ。コロシアムでも貸し切って。収入はチャリティーにでも回せばいいじゃないか」
「まあ盛あがるのは間違いないですね……仕事は増えますけど」
副会長はややツンツンしている。
「どうじゃ、アレク。やってみないか?」
正直に言おう。めちゃくちゃやってみたい。だって、会長と手合わせなんてずっと夢の夢だったんだよ?
いつか伝説級冒険者になりたい。
伝説級冒険者に会ってみたい。
これが目標で冒険者を始める人がほとんだ。
そして、俺はずっとあこがれだった人と今同じ目線に立っている。
会長に認めてもらった。
そして、会長と同じ場所で戦える。
こんな名誉なことはない。
会長は史上最強の男と呼ばれている。
一騎討ちなら誰にも負けないからだ。
雷魔力を生かした圧倒的な速度と手数の多さやトリッキーな動き。魔王軍最高幹部のメフィストすら寄せ付けない圧倒的な個の力に俺がどこまで戦えるのか。純粋に興味がある。
「よろしくお願いします」
俺は心のおもむくままに従って返事をする。
史上最強の雷使いと史上最強のオールラウンダーの伝説的な戦いがここに成立した。
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