第176話 カイロスの扉

―ギルド協会本部副会長室―


「ずいぶんと新聞がにぎわいをみせておるのぉ。「魔王軍最高幹部災厄の王ハデス死す!」の次は、「4人目の生ける伝説誕生!」だ。まるでお祭り騒ぎじゃな」


 会長は私のいすに腰掛けながら新聞を読んでいた。


「いらっしゃるなら、会議に出てくださればいいのに」

 私は嫌味を言うが、いつものように「長い会議は嫌いじゃ。老人に無理をさせるな」とかわされる。


「ここに来たということは、何かあったんですか?」


「なに、たいしたことではない。伝説級冒険者がいつまでもギルド協会の官房長にいるのもどうかと思ったんでな。その相談だ」


「であれば、私を降格して、アレクを副会長にしてください。実力的には彼のほうが副会長にふさわしい」


「いや、それはだめだ。序列的には、伝説級冒険者は、各国の宰相や元帥と同格。海軍の元帥であるそなたが降格するのはよくない」


「では、どうすれば?」


「ふむ、アレクにはギルド協会の陸上戦力の総司令とかはどうかな。副会長と立場的にも同格になるし、わしの負担も減る」


「総司令兼官房長ですか」


「うむ。副会長兼艦隊司令長官を兼ねる前例もあるし、もともとアレクが陸上を動き、ミハイル副会長が海上からサポートするパターンが多かったからな。違和感はあるまい」


「わかりました。すぐに事務的な手続きを始めます」


「ああ、そうしてくれ。さて、事務的な話はこれくらいにしようか。聞きたいことがあるんだろう?」


「はい。ハデスが言っていた"カイロスの扉"とはなんですか? 知っているのでしょう」


 戦闘の詳細はナターシャくんから聞いている。


「……」


「クロノスの剣と光魔力がトリガーとなって作られる神の存在領域。会長がひた隠しにする目的もそれに関連があるのでしょう?」


「……みごとだ」


「説明願いますか?」


「クロノス、カイロス、ともに古代魔力文明の言葉で時間を表す。だが、二つの意味は微妙に違う。機械的に流れている時間がクロノス。逆に人間が体感する時間がカイロスだ。そのふたつを掌握したときどうなるか」


「……見当もつきませんね」


「おそらく、それができるようになったとき、人は時間すら制御できる。簡単に、過去にも未来にも干渉できる神のような存在になるんじゃよ」


「クロノスの剣によって、カイロスの扉が開き、2つの時間を制御する。それが、神の存在領域だと?」


「うむ」


「それを使ってあなたは一体何をするつもりですか?」


「現世と冥界めいかいをつなげるんじゃよ。すべてを明らかにするために……」

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