第165話 暗躍する会長
―イブラルタルギルド協会本部・副会長執務室―
私はイーゴリと情報を整理していた。
「今回のダンジョン探索で、魔力文明の崩壊に大悪魔・メフィストが関与していたことが分かった。だが、失われた歴史についてはまだ、謎だらけだな、イーゴリ」
「はい。列強たちは何かを隠しているのはまちがいありません。でも、彼らが口を割るわけがない。つまり、人間と魔王軍の開戦理由は、いまだに謎のままです。我々が、協力的な魔族と接触できれば、なにかわかるかもしれませんが」
「少し考えをまとめたい。ひとりにしてくれ」
「わかりました」
そう言って彼は退室した。
列強国は、長年魔族のせん滅を至上命題にしてきた。だからこそ、私の和平案には、猛反発するだろう。
だからこそ、秘密裏に物事を進めなくてはいけない。そして、列強国を上回る権限を行使できるようにギルド協会側を強化する必要もある。
アレク官房長の加入は、その計画の一番の功績だった。すでに、世界は彼なくしては回らない。
協会の発言権は、彼の実力によって強化された。すでに、彼一人で国家規模の軍事力を備えている。
さらに、度重なる魔王軍との戦争で、列強の軍事力はそがれている。私の計画は、極めて順調に進んでいる。
だからこそ、怖い。
協会の最高権力者であり、世界最強の男。
会長の存在だ。
アレク君を協会に加入させたのも、ヴァンパイア討伐チームに彼とナターシャ君を選んで光魔力を覚醒させたのも、そして、クーデター討伐の中でメフィストと接触したときも、すべて会長が絡んでいる。
おそらく、会長は、自分なりに計画を推し進めている。アレク官房長をトリガーとして、世界を変えようとしているんだ。
そして、会長のゴールがどこに設定されているかは、彼以外に誰もわからない。
「ずいぶんとお悩みのようだな。副会長」
懐かしい声がした。噂をすれば、だな。
「お久しぶりです。会長。今日はどうしましたか?」
「アレク官房長が、おもしろいものを手に入れたと聞いてね。その報告を聞きに来たんじゃよ。大丈夫だ、イーゴリからすでにほとんど聞いた。まさか、メフィストが諸悪の根源だったとはな」
「ご存じだったのではないんですか?」
あえて、私は彼をけん制する。
「わしが知るわけがないだろう。失われた歴史の一部じゃ」
「そうですか」
「ああ、儂は何も知らん」
この人は政治家だ。しらを切っているのがよくわかる。
「ですが、このままアレク官房長が動き続ければ、少しずつ世界が暴走していくように思うんでしょね」
「ほー?」
「彼がニコライとの決闘に勝利してから、わずか1年未満で、世界は大きなうねりを見せています。巨大な力が生まれれば、世界は新しい秩序を目指して、少しずつ世界を変化させていく。いつか、我々の手を離れて、だれにも止められなくなる」
「おそれることはない。我らは、ギルド協会だ」
この発言が全てだな。会長の計画は、世界を混乱に向けて動かすものだ。
世界は激動の時代に突入する。
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