第166話 政治家としてのナターシャ

 ダンジョンを攻略した俺たちは、久しぶりに村に帰った。

 村には、数多くの商人たちが買い付けに来ていた。やっぱり、道路整備したのが大きいようだ。


 宿には、この村や近隣の村で採れた美味しいご飯を提供できるようにしているので、そっちの評判もかなりいいらしい。


 採れたての季節の野菜や、乳製品。肉の輸送は難しいから、ハムやベーコン、ウィンナーなどなど。


 やっぱり、産地で取れたものをそこで食べるのは美味しいよな。


「順調だな、ナターシャの計画も」


「はい、いい感じに村にお金が落ちるようになりましたね。生産力をもっと上げることができれば、さらに良くなります」


「生産力を上げる?」


「はい、例えば、農業の自動化ですよ!」


「農業の自動化!? どうやるんだ?」


「例えば、米ですね。コメを作るのには、どうしたって力がたくさん必要になります。田植えからはじまって、稲刈り、そして、脱穀だっこく。もう一つ主食である小麦も労力がたくさん必要です。先輩もこの前、脱穀を手伝って大変だったと言っていたでしょ?」


「ああ、板と棒を使って、力いっぱい叩いて、原始的にやるからメチャクチャ疲れた」


「それだと女性や子供だけで農業をやるのが厳しいです。だからこそ、魔道具や機械を導入できないかなと思うんですよ!!」


「なるほど、そうすれば、もっと楽に農業ができるな。そうすれば、さらに広く農地を増やしたりもできるし、農家へお金を落としやすくなる」


「はい。ですが、魔道具や機械は高いです。だからこそ、今回の利益で余裕ができた共用費で、そっちも導入できたらいいなって、村長さんたちとも話しているんですよ」


 子供たちの教育と、農業の自動化か。そうすれば、子供たちもさらに勉強に回せる時間が増えたりしていいんだな。


「どんな魔道具を導入するんだ?」


「そうですね、脱穀機とかがいいなって思うんですよ。あと、山の方の村から、牛や馬を借りてきて、畑を耕してもらったりしてもいいかな……期間限定のレンタルで! この村には、村長さんのところにしか家畜がいないんで、絶対数が足りてないんですよね。村と村で連携していけば、さらに豊かになると思います!」


 たしかに、家畜を新しく買うのは高くつく。なら、近くの牧畜をやっているところから借りてきてしまえばいいのか。


 ナターシャの考え方は柔軟だ。ナターシャが協力している村同士で協力して、より効率化を目指す。勤勉で貪欲。この地域にナターシャ王国ができても不思議じゃないくらいの政治力と調整力だよな。


 後継ぎがいない辺境伯様ももしかして、彼女を後継者にしようとしているんじゃないのか。


 俺は少しだけそれを疑っている。

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