第154話 始祖のダンジョン
「それで、どんなダンジョンなんですか? ミハイル副会長のことだから、すでに調査部隊を派遣しているんでしょ?」
さすがに、俺も副会長の性格は、つかんでいる。用意周到な人だからな。ある程度の調査は終わっているはず。自分の子飼いの協会専属冒険者を派遣したんだろうな。
だが、その冒険者では、手に負えない問題が発生した。だから、俺に協力を求めている。
そんな感じ。
「ああ。だが、誰一人として地下3階までたどり着けないんだよ」
「そんなに、難しいダンジョンなんですか? 魔獣が生息していて、そいつらが強いとか?」
「魔獣はいるし、そこそこ強い。だが、それが大きな要因じゃないんだよ。アレク、ダンジョン攻略の定跡はわかっているだろう?」
「ええ! 無理せずに、何度もダンジョンに戻り、マッピングや罠の位置を確認して、危なくなったら地上に戻る。それを繰り返していけば、どんなに難しいダンジョンでもいつかは攻略できるはずですよね」
「そう、それが今までの定跡だった! だが、あのダンジョンではそれが通用しないんだ。これを見てくれ」
副会長は、2枚の紙を俺たちに渡す。ダンジョンのマッピングに使う魔力紙だ。破れることもないし、魔力を使って筆記できるため、余分な荷物も不要になる。ダンジョン攻略の必須アイテムだ。これがあるかないかで、ダンジョン攻略の確率がまるで違うからな。
どうやら、別の階層をマッピングしたもののようだ。しかし、ダンジョンとはいえ、階層ごとに、ここまで形が違うのは不思議だな。
「普通のダンジョンに見えますが、何か変なものでもあるんですか?」
「うん、そのマップが
「「えっ……」」
俺たちは絶句する。つまり――
「そう、これは同じ地下1階のマップなんだよ。このダンジョンはまるで生き物のように、入るごとに形が変わるんだ。罠の位置や扉を開くために必要なもの……毎回、仕様が違う……」
「それじゃあ、マッピングできないじゃないですか!」
「そう、今まで冒険者たちが培ったノウハウが全く通用しないんだ。冒険者の実力だけが頼りの難関だね。だからこそ、いま僕が持っている最強の戦力を投入したいんだ。それに、こんな特殊なダンジョンだ。きっと、始祖たちの遺産に関するなにか特別なものが封印されているとみていいだろう。そもそも、始祖たちはこのダンジョンを作ることができるほどの技術を持っていたと考えると、失われた歴史のヒントがあるかもしれない。行ってくれるよね、アレク官房長」
そこまで言われたら拒否できないよな。
「わかりました」
副会長は、あえて言わなかったが、もしかしたら、戦争を終わらせるための情報が眠っていると考えていいだろうな。
腕が鳴る。
※
そして、工事も無事に終わり、イブラルタルと村の往来が本格的に始まった。
最初は問題も多かったけど、少しずつ皆慣れていき物流もスムーズになっていった。
副会長とはすべてが安定してきた後、ダンジョン攻略をする約束になっている。もう、村の皆は普通に仕事を任せられるほどになったしな!
「じゃあ、そろそろ本業にいくか、ナターシャ!」
「そうですね!」
俺たちは、一緒にイブラルタルに向かった。
※
「忙しい時にありがとう。アレク官房長、ナターシャ君」
副会長は、俺たちに白々しく笑いかける。
「今回は、俺たち以外は誰が突入するんですか?」
「うん、すでに人選は終わっているよ。僕が考える最高のメンバーで行ってもらうよ。まぁ、ふたりにとってはいつものメンバーだけどね」
でしょうね。ダンジョン攻略は、仲間との連携が大事になるから、即席のパーティーでは不安になる。そして、ダンジョンは狭い。だから多人数で、潜ると機動力が下がり攻略が難しくなる。
よって、冒険者基本法通りに4名が最適解だ。
あとは、どれだけバランスが良いメンバーを配置できるかが成否を分ける。
そこら辺の人事は、副会長の得意とするところだろうけど。
「アレク官房長は、基本的に何でもできるからね。パーティーに必須の回復役もナターシャ君がいてくれるからあとのふたりの人選は選びやすかったよ。入ってきてくれ、ふたりとも!」
そう言われて、入ってきたのはボリスとイーゴリ局長だった。
だろうな、俺も納得の最適解だ。
そもそも、狭いダンジョン内では、魔獣と遭遇しても少数対少数だから、そこまで大掛かりな魔術は必要ない。むしろ、大魔術は通路をふさぐ可能性すらあるので、デメリットの方が大きい。
だからこそ、白兵戦に強いボリスは、ダンジョン攻略のアタッカーとしては、最適の人材だ。
一騎打ちなら、ほとんど敵がいないから……
そして、イーゴリ局長は、最強の錬金術師。
その場に必要なものを生成することができるのは、本当に大きい。わざわざ、地上に戻って準備をし直すというロスがないからな。
それに、罠にも強い。局長の戦闘スタイルが、罠を使って相手の動きを制限するタイプだから余計にそうだ。罠の回避や解除もアイテムでこなしてくれる。最強のサポート役で、もちろんS級冒険者だから、戦闘でも活躍できる。
攻撃は俺とボリス、回復はナターシャ、各種のサポートをイーゴリさんがそれぞれ担う。
ダンジョン攻略という目的に特化した最強のチームのはず。
そして、何度も死線をくぐり抜けてきたメンバーだ。
俺たちは自信をもって、握手をした。
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