第109話 後輩と幼馴染

 私は、エカテリーナさんと約束していた場所に向かう。

 特に約束していたわけじゃなかったけど、彼女はやっぱりそこにいてくれた。


「やっぱり、来たのね。ナターシャさん」

「はい、待っていてくれたんですね、エカテリーナさん」

 私たちはそう言って、笑い合った。


「先輩との話し合いは終わりましたか?」

「ええ! でも、まさかあなたがセッティングしてくれるとは思わなかったわ」

「それが、ふたりにとって一番いいと思ったからです。でも、騙すような形になってしまってごめんなさい」

「そう……まぁ、いいわ。あなたが動いてくれなかったら、たぶん私はアレクと話せずに終わっていたと思うから……それについては、本当にありがとう。お礼にお茶でも奢るわ。付き合ってくれないかな?」

「ええ、喜んで!」


 私たちは、カフェに移動した。


 ※


 エカテリーナさんは、ローズマリーティーを注文し、私はフェンネルティーを飲む。


「そうですか。先輩はそんな風に言っていましたか」

 私は少しだけ心が揺さぶられた。やっぱり、先輩はちゃんと感謝の気持ちを伝えたんだ。でも、本当に本心はどうなんだろう? 私はふたりの邪魔なのじゃないのかな? そんな心配になる気持ちを必死におさえていた。


「うん、やっぱりキチンと話せてよかったよ。アレクと正面から話せてよかった。ナターシャさんのおかげね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。あの、エカテリーナさん? ひとつだけ聞きたいことがあるんですが、いいですか?」

「うん、いいよ」

 彼女は、私が何を聞きたいのかよくわかっている様子だった。ローズマリーの香りが私を包み込む。


「先輩は、きっとあなたに恋をしていたと思います。たぶん、初恋を……」

「そう言われると照れちゃうね」

「エカテリーナさんは、どうだったんですか? 先輩に、恋、していたんですか?」

「随分とストレートね! そういうところ嫌いじゃない」

「どう、なんですか?」


 彼女は笑いながら、お茶を飲んで天井を見ながら私に語り掛ける。


「好きな人でなければ、命を懸けてまで守ろうとしないでしょう?」

「……」

「そんな悲しい顔をしないでよ」

「ごめんなさい……」


 私は慌ててお茶を飲んだ。


「愛情に値する」

 エカテリーナさんは、私にそう言った。


「えっ?」


「知ってる? フェンネルの花言葉よ。ちなみに、私の飲んでいるローズマリーの花言葉は、『思い出』と『変わらぬ愛』よ」


「やっぱりそうなんですね」


「うん。やっぱり、あきらめきれないわ。でもね、あなたたちの関係を否定しようとも思わないの」

「どういうことですか?」


「あなたが、リヴァイアサンから必死に彼を助けようとしていたところ、病院で寝る間も惜しんでアレクを看病していたところ。あなたの深い愛がよくわかったわ。それに、アレクはずっとあなたを褒めていたのよ?」

「私を?」


「そう。ナターシャは、俺とは違って、人の命を直接救うことができるのがすごいとか…… 俺は、あいつがいなければ、勇者パーティーを追放された時に、たぶん立ち直ることができなかったとか…… あんたどんだけ、ナターシャさんのこと好きなのよって思うくらいを聞かされたんだからね」


 嬉しすぎて、顔を下げてしまう。恥ずかしいほど顔が熱くなっていた。


「だから、私からもお礼を言わせて。ありがとう、ナターシャさん。私の大好きな人を支えてくれて! お互いのアレクへの気持ちは、一度置いておいて、私たちも友達になりましょう。ちゃんと、あなたとは向き合っていきたいのよ」


 彼女は力強く私を見つめる。


「はい!」

「よかった~! じゃあ、これからもよろしくね、ナターシャさん!」


「でも、先輩は渡しませんよ」

「言ってくれるじゃない! 後輩のくせに」


 私たちは軽口を叩きながら笑い合った。

 そして、言っておかなければいけないことを彼女に伝える。


「エカテリーナさん、ありがとうございます」

「えっ?」

「ありがとうございます。先輩を命懸けで先輩を助けてくれて……本当に本当にありがとうございます!」


「もう、ホントにどんだけお互いのことが好きなのよ?」

 

 彼女はそう言って笑った。

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