第102話 帰り道でイチャイチャ

「濡れちゃいましたね」

「そうだな」


 お互いに水に濡れてしまった俺たちは、少しだけ恥ずかしい思いをしながら帰路についた。


 通行人にちらちら見られる。さすがに、居心地が悪い。まあ、俺も有名人だし、その有名人がずぶ濡れで歩いているのだから怪しいよな。


 でも、いいものを見れたし、イチャイチャは最高に楽しかったから、後悔はしていない。だって、女の子のカワイイ仕草を生で見ることができたんだ。悔いはない。


 それに、ナターシャや仲間たちの覚悟だって教えてくれた。今後はそれに応えていかなくちゃいけない。


 勇者パーティーを役立たずだと言われて追放された俺のために、命を投げ出してくれる人があんなにいるんだ。俺はここにいていいんだと思うと、安心する。


 ナターシャ、エル、エカテリーナ、ボリス、ニキータさん、あそこにはいなかったけどマリアさんやミハイル副会長。たぶん、彼らは俺を助けてくれる。そして、俺も彼らを助ける。もう、俺たちはそういう仲だった。


 どうしてだろうな……


 どうして、ニコライとはすれ違っちゃったんだろう?


 もう少しだけしっかりコミュニケーションをとるべきだった。言わなければ、わからないことだってたくさんあったはずなのに。長年の関係ということに、俺たちはあぐらをかいてしまったのかもしれないな。


 かつての親友を失ってしまったことは、今でも悔やまれる……


「そういえば、先輩!」

「どうした?」

「明日の夜、暇ですか?」

「暇だよ」

「ですよね! じゃあ、私と一緒に演劇行きませんか? 副会長さんからチケットもらったんですよ! なんでも、付き合いでもらったけど、別の仕事で行けないから、ふたりで行ってくればって……」


 嫌な予感がする。副会長がわざわざ場所をセッティングするということは、絶対に何かある。だって、この前の旅館でも混浴に誘導されたし……


 これは絶対に罠だ。今回も俺たちをからかうために、絶対に何か仕込んでくるはず。


 行ってはいけない。俺の本能が全力でそう言っていた。


「ちなみに、行くなら副会長さんが、私たちにドレスと素敵なディナーを用意してくれるそうですよ?」


「行く!!」


 さっきまでの警戒はどこかに行ってしまった。ナターシャのドレス姿が見たいそれだけの気持ちで俺は演劇行きを決める。


「現金な人ですね~まぁ、私も先輩との演劇っていうデートらしいデートしてみたくはなくもなくはないですが……」


 ナターシャの声が急に小さくなる。


「えっ、なんだって?」

「なんでもないですよーだ! 明日はドレスのレンタルしてくるので、楽しみにしていてくださいね!!!」

「なんで、ちょっと怒ってるんだよ……」


 そう言いながらも、俺たちの手はずっと繋がれていた。

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