第72話 マジックキャンセル
地鳴りと共に光は強くなっていった。俺は、その光が輝く瞬間に、ダブルマジックで
さきほどまで光っていた魔力地雷は沈黙し、光はどこかに消えてしまう。
うまくいったようだ。森に、魔力除去は広がっていく。その効力によって、地雷の連鎖爆発を食い止める。トリガーが無ければ、火薬も仕組まれていない地雷はただのオブジェだ。
森の東西の端で、大きな爆発が発生した。やはり、森全体に魔力除去を浸透させることには失敗したようだ。しかし、単なるオブジェ状態のそれでは誘爆は発生しない。
2個の爆発だけで食い止めることはできた。この森は陸上封鎖されているため、罪のない一般人が巻き込まれる心配もない。
「ふたりとも、大丈夫か?」
「はい!」
「寿命が縮まったぜ!」
よかった。あとは、この場を逃亡したエレンの確保だ。俺たちは、顔を見合わせてうなずいた後に、追跡を再開しようとした瞬間、背後から近づいた黒衣の
「危ない!!」
ボリスが一瞬で抜刀し、俺の首元に突き付けられた毒ナイフを弾いてくれる。完全に奇襲だったな。ボリスが助けてくれなかったら、間違いなく致命傷を負っているはず。
「ちっ、さすがの反射神経だな」
アサシンは、すぐに俺たちと距離を取り、ボリスの影響範囲から外れた。
「「「ブオナパルテ!!!」」」
火山で消息を絶った元S級冒険者の狂信者はそこにいた。
なるほど、魔力地雷と元S級冒険者の二段構えか。確実に俺たちを処分し、自分たちは逃げるための姑息な作戦。本当にあの女は…… 俺は拳を握りしめて戦闘態勢をとる。
「おやおや、元S級冒険者ひとりに、現・世界最高戦力と白兵戦最強の男、そして、現代の聖女さまかァ。相手にとって不足なし! お前たちみたいな若造には、現実の厳しさというものを、俺が叩きこんでやるよォ!」
※
ブオナパルテ……
勝つためには、手段を選ばずに、どんな手でも使う冒険者の暗部にいた男。
マクレスターの虐殺。邪龍事件の後に、俺はそれについても調べた。
魔王軍の侵攻のため、冒険者に救援を要請したマクレスター市の住民を逆に囮として、魔王軍を市内へと導き、今回のように魔力地雷を使って、街ごと吹き飛ばして、敵を壊滅させた。
「クエストは完了した。勝利のために、必要な犠牲だった。もし、ギルド協会本部の救援を待って、俺が魔王軍を壊滅させなければ、周辺の都市にまで奴らは押しかけていただろうし、犠牲者はさらに増えていたはずだ。このわずかな犠牲で、俺は将来の損害を最小限に抑えた。そもそも、民間人に犠牲者を出すななど、クエストの発注書には書かれていなかっただろう? 大義を為すためには、必要な犠牲だった。仕方がない」
これが虐殺の後に、こいつが供述した内容だ。
彼を逮捕するために、協会の精鋭が、パーティーを組んであいつを逮捕しようとしたが、結果は失敗だった。
「言ってもわからない愚者ばかりか……」
ブオナパルテはそう捨て台詞をはいて、行方をくらませた。
その後は、自分の実力で略奪を繰り返す大盗賊へと身を落としたのだろう。その中で、かつてのナターシャのパートナーも毒牙にかかってしまった。
ブオナパルテは、史上最強のシーフとも言われていたらしい。1対1の戦いでは、他のS級冒険者には劣っていたとされるが、自分のホームグラウンドに相手を誘導し、張り巡らせた罠で相手を動けなくさせて、倒す技術は一級品だったそうだ。
パワーこそないが、それをスピードでフォローし、
歴史の闇に埋もれた協会の闇の仕事を担っていたという噂すらある。
そして、ここは、あいつのホームグラウンド……
分が悪すぎるぜ!!
※
「ええ、私の本当の依頼主は、ここにはいないあなたの娘さんです。実の娘に裏切られた気分はいかがですか? あんたは、ほかの信徒と同じように捨て駒にされたんですよ! 大義のための犠牲者として、選ばれたんだ。とても、光栄でしょ?」
「何をおっしゃっているんですか? これは恩返しですよ。あなたは、夢にまで見た邪龍様と会えるんじゃないですか。じゃあ、さようなら!」
「おやおや、破滅を望みの教祖様が、どうしてそんなに生命に執着なさるんですかぁ?」
「早く落ちてよ、教祖様!」
※
火山での教祖暗殺の光景がフラッシュバックする。笑みを浮かべながら、追いすがる老人を粛清する冷酷な男。
副会長の言葉を思いだす。
「きみには本当に申し訳ないと思っている。ニコライの退場で、世界のパワーバランスが崩れてしまったから、世界中で問題が発生している。今回も報酬はきちんと払わせてもらう。だが、相手も相手だ。ヴァンパイアや邪龍の件とは違って、今回は、かかっているのはしょせん、ギルド協会のメンツだけに過ぎない。君たちの安全を第一に考えて行動して欲しい」
だが、もう逃げることはできないほど、事態は緊迫化してしまった。
まったく、損な役回り。
だけど、ひとつだけ誓っていることはあった。
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