第52話 復活

 暗黒のドラゴンは、その巨大な胴体をゆらゆらと動きながら、火山の形すらも変えていく。

 ついに復活した邪龍は、自由の身を喜ぶように、咆哮する。


 それだけで、衝撃波が発生し、周辺の木々は倒れていく。

 ただ、復活しただけで、もはや自然災害のような甚大な影響を与えている。


 ボリスの盾がなければ、俺たちも跡形もなく吹き飛んでいただろう。


 視界が開けた時には、ブオナパルテの姿はなくなっていた。すでに、逃げたのか、それとも火に包まれたのかはわからない。


 だが、やつのことを気にしている余裕はなかった。邪龍は、俺たちの姿を見つけると、雄たけびをあげながら迫ってくる。


 さっそく、敵認定をされてしまったらしい。


 ボリスの体力もさきほど、俺たちを守ってくれたおかげで消耗している。ここは俺が前に出なくてはいけない。


 邪龍は雄たけびをあげながら、灼熱の炎を吐いた。


 そこにあるすべてのものは一瞬にして、融解していく。まともにくらっては、教祖のように消し炭になってしまうだろうが――


 俺には、絶対零度の剣があった。

 ここで、こいつの力を発揮させる!


 初めて抜いたその剣は、すでに強力な氷魔法をかけられているかのように、斬撃に氷属性が付与されている。


 炎は一瞬で中和されて、灼熱すらも乗り越えた斬撃が邪龍を襲った。

 斬撃は邪龍の左目を貫く。


 よし効果がある。これならいける。


 俺はこの武器なら邪龍と戦えることを確信する。


「生意気な人間どもめ。絶対零度の剣と業火の盾を持っているとはな。双頭龍を倒した者たちか。ならば、私も本気になるしかないな」


「なんだ、しゃべれるのかよ、邪龍さんよ」


 俺は斬撃の第二波を放った。


 ※


 俺の2度目の斬撃が、邪龍の左手を吹き飛ばした。


 さすがに動きが早い。本来なら、頭を狙っていたのに防がれたか。


「やはり、厄介だな。その剣は……」

「随分と余裕だな?」

 追い詰められているはずなのに、邪龍は余裕があるように見える。なにか隠しているのか?


「虫けらに、手を刺されたくらいで、どうして余が焦らねばならんのじゃ?」

 そう言って再び咆哮をあげると、衝撃波が周囲をえぐった。

 俺もガードしきれずに吹き飛ばされる。


 ※


 数分ほど、意識を失っていた。

 目の前にはナターシャがいた。


「先輩、目が覚めましたか? 痛みはありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。悪い、治癒魔法をかけてくれていたのか。邪龍は?」

「ボリスさんと副会長さん、マリアさんが足止めしてくれています。私は、先輩を回復させることと、聖魔術を送りこんでおくように頼まれました」


 そういうことか。俺の体のなかに何かしらの魔術が流し込まれているような感覚がある。これがナターシャの聖魔術か。


 つまり、ヴァンパイア討伐の時と同じく、俺が光魔術を使うことで状況を打破しろということだろう。俺は、時間を稼いでくれている3人を見つめた。


 マリアさんが補助魔法でふたりを助けている。ボリスと副会長は、ヒットアンドアウェー戦法で逃げに徹しながら時間を稼いでくれていた。


 しかし、世界最強クラスの白兵戦力であるふたりですら、邪龍にダメージを与えることは困難のようで、攻撃はことごとく弾かれている。副会長は自慢のスピードで、ボリスは業火の盾をうまく使うことで邪龍の攻撃を防いでいるが、このままではじり貧になってしまうのは、自明の理だ。


「フハハハハハ、絶対零度の剣以外で、余にダメージは通らない。無駄だ、人間ども」


「無駄だろうが、なんだろうが、ここでお前を倒さなければ、無数の人が苦しむことになる」

「ボリス君の言う通りだ。ギルド協会副会長として、その事実を座して見ているわけにはいかない」

「そう、私たちが玉砕したとしても、あなたを必ず打ち滅ぼしてくれる。だから、捨て駒になるのだって、構わないわ!」


「高尚な覚悟というわけか? ならば、余もその覚悟に報いなければなるまいな!」


 邪龍は、大きく息を吸い込んだ。今までの灼熱の炎とは違い、透明な空気の渦のようなものができる。真っ赤な炎ではなく、青白い炎が邪龍の口の周囲に作られていく。


「それでは、おのが高尚な覚悟を胸に逝けィ。虫けらどもめ」


 邪龍の青い炎は、拡散することなく一直線のビーム上になって放出される。


 副会長は愛用の聖槍"ダモクレスの槍"の特殊効果で、ボリスは業火の盾を使い協力して、青い炎を抑えようとした。


 猛烈な光線上の炎が、ふたりを襲う。


 伝説の神具のフルパワーでなんとか、邪龍の攻撃を防いだふたりだったが、青い炎を弾き飛ばすだけで精一杯だった。


 青い炎は、東側に向かい、そこにあったはずの山を消し飛ばす。


 炎を弾き飛ばした反動で、ボリスと副会長も吹き飛ばされる。気を失ってしまい、戦闘の継続は困難な様子だ。


「ナターシャ、あとどれくらいで終わる?」

「あと少しです、先輩!」


 青い炎の第2波が俺たちを目標に定めようとしていた。

 さっきの攻撃で分かったが、あの炎は、威力減退がほとんどない。


 この方向の延長線上には、ナースル王国の王都があるはずだ。どうにか、防がなければこの国が壊滅するほどの災厄になる。


 どうする、なにか方法はないか?


 焦った頭で俺は対策を考える。


 眼前には、青い光が迫っていた……



―――



<ギルドカード紹介>


氏名:ミハイル

職業:騎士(職業内序列1位)

ギルドスコア:950(S級)


能力


体力:880(世界ランク10位)

魔力:―(―)

攻撃魔力:―(―)

治癒魔力:―(―)

補助魔力:―(―)

魔力防御力:800(世界ランク16位)

総合白兵戦技能:880(世界ランク7位)

総合白兵戦防御力:880(同上)

知力:970(世界ランク2位)



総合能力平均値:882

総合能力ランク:6位

判定:S級相当(※冒険者クラス認定は本人の能力以外に実績も反映されるため、この判定はあくまで参考です)



主要実績

・諸王国連合第七艦隊総司令・元帥(現職)

・ギルド協会副会長(現職)

・世界国防担当大臣会議議長代理(現職)

・バル攻防戦における海上封鎖の突破

・クラーケン討滅作戦最高責任者

・ポールランド沖海戦において、魔王軍北洋艦隊を殲滅

・世界中央航路の発見

・魔王軍西洋艦隊の最重要拠点ルアンを奇襲し、主力艦を殲滅し、制海権の確立

―――

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