第38話 盗賊
リーフレタスの種まきも終わり、俺は家に帰って本を読んでいた。
ナターシャは夕食の準備で、スープを煮込んでいる。
ここ数日は、畑仕事で忙しかったら、少しだけウトウトしていた。今日は早めに寝ようかなと思っていると、村長さんたちが慌てた様子で俺たちを呼びに来たようだ。
「大変だ、アレク様、ナターシャ様!?すぐに来てくださいませんか?」
「どうしたんですか?」
「盗賊が、盗賊が現れて、どうも冒険者がやられたらしい。ひどい傷を負っていて、村の近くで倒れているんだ!!」
ナターシャの手は震えて、顔色が蒼白になっていた。
俺も剣を握って、すぐに外に繰り出した。ナターシャも台所の火を止めて、すぐに家から飛び出す。
盗賊と言うと、毒ナイフを使っているかもしれない。倒れている冒険者に早めに、処置をしないと、取り返しがつかないことになりかねない。
俺たちも、それが分かっているから、必死に走った。
盗賊。それは、犯罪者集団だ。弱小冒険者や用心棒がいない村を襲っては略奪を繰り返す。
冒険者崩れや犯罪の逃亡犯が徒党を組んでいることが多く、危険な存在だ。あいつらは、自分よりも弱い存在を狙うことが多く、正々堂々と勝負することなく奇襲を仕掛けてくることも多いので、俺は警戒役として、みんなよりも前に躍り出る。
2人の男の冒険者が倒れていた。
ナターシャはすぐさま、回復魔法を唱えるための準備をする。
傷口やふたりの苦しみ方から、毒の有無などを判断しているようだ。
俺は、補助魔法をかけて、周囲の状況を調べていく。
盗賊たちの手口は、負傷した人間をブービートラップのように利用して、新しい獲物を呼び寄せて奇襲する。だからこそ、ナターシャが回復魔法をしている時に、俺はしっかりと護衛をしなくてはいけない。
そして、見つけた、盗賊たちは3人。近くの草むらに隠れている。
補助魔法無効化の対策をしていないところを見ると、そこまでの実力ある盗賊団ではないようだ。
最強クラスの盗賊は、S級冒険者に匹敵する実力があると言われている。
よかった、このレベルなら、俺一人でも対処できる。
周囲の状況から、賊は3人だと確定。おそらく、俺たちが油断するところを狙って奇襲を仕掛けるつもりだろう。本当に卑劣だ。
ナターシャたちの安全を確保するためには、先制攻撃で無力化させるしかない。
俺は隠れている3人のいる草むらに走った。
「やばい!」
「ばれたか!」
「どうしてだ!?しかたねえ、やるぞ!!」
盗賊なら、ステルス魔術くらい必須だろうに……やつらのこの反応を見ると、本当に何も知らないようだ。毒を使った奇襲攻撃で敵を倒すことだけに長けた集団。
そちらのほうが俺にとっては好都合だ!さすがに、ステルス魔法も知らないやつらなら、正面から戦った方が勝率が高くなる。
「おりゃぁぁぁっぁぁあああああああ!」
構えも完全に素人のそれだった。ボリスやニコライのそれとは違い隙がありすぎる。俺は楽々とかわして、相手のみぞおちに一発ケリをお見舞いする。男は、苦しそうに床に転がった。
これでひとり。
後ろから近付いてきた男の攻撃を、しゃがむことでかわして、足を払う。バランスが崩れたところで、頭を蹴って吹き飛ばした。
これで2人目。あとはひとり。俺が最後の盗賊に目を向けると、そいつは、膝を震わせながら尻もちをついて、ナイフを投げ出していた。
「ひいいいいぃぃぃぃぃいいいいいいい」
戦意を完全に失ったようだな。これで3人目か。
「あ、あんたは、ア、ア、アレク、官房長!?どうして、ギルド協会のナンバー3で、ヴァンパイアを倒した世界最高戦力が、こんなチンケな村にいるんだよ。ありえない。ひいいいいぃぃぃぃぃいいいいいいい」
「チンケな村に住んでいて、悪かったな!動くと安全は保障できないぞ」
「命だけは、命だけは――」
こいつらは、自分がどれだけの人を苦しめたのかわかっていないようだ。警告したにも関わらず、逃亡しようとした男を失神させる。このまま逃がして、村のみんなに危害を加えられたらまずいからな。すでに、土の上で伸びている男ふたりには、催眠魔法をかけて完全に無力化した。
あとで、ロープを巻いておいて、ギルドに引き渡そう。
冒険者を手当てしているナターシャも無事だ。治療も上手くいっているみたいだし。これで一安心かな?
「さすがは、アレク様だ。一瞬に、賊3人を倒しちまった……」
「ああ、一瞬だったな。盗賊とは、まるで住む世界が違ってたよ」
「あれが、世界最高戦力か……!ちゃんと戦っているところはじめて見たけど、やっぱり別次元だ」
驚いて唖然としている村の人たちの横で、ナターシャは安心したように微笑んでくれた。
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