第30話 ニコライ③
―ギルド中央病院 特別病室―
ここに入院してから、もうすぐ1カ月。
ずっと、監視付きで幽閉状態だ。
ケガの方は、もう治っているはずなのに、俺の退院許可は一向に下りなかった。そして、この病室は、対魔法仕様のようで、俺が魔術でここから逃げ出そうとしても、穴すら開かない。
武器、防具もすべて没収されてしまって、入り口は厳重に封鎖されている。
「なんでだよ!!世界の英雄をこんなところに閉じこめやがって!!あのギルドの奴ら、絶対に許さねぇ」
俺は怒りで自分の手が震えているのがわかった。震えを抑えようとしても、それは止まらず、俺はさらにイライラする。
ここに魔物でも襲来したらどうするんだ。そう思うと、ドアすら魔物に見える。
「くそがぁぁっぁぁぁあああああぁぁぁぁ!!」
冷静な判断ができなくって、俺はドアに火炎魔法をぶつけた。
しかし、すぐに火球はドアに吸い込まれるように消えてしまう。どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって。俺が、何度世界を救ってきたのか、わかってるかよぉ!?
この世界にいる奴らは、もうみんな敵だ。ぶっ殺してやる!!
どうしようもない怒りに囚われていると、新聞が届いた。
新聞はこうして、たまに届くことになっている。これだけが、俺の癒しだった。
ポスト式の扉の窓からそれは無造作に投函される。
医者と看護師以外に俺と接触する者はいない。
「俺は囚人かなにかんですかねぇぇっぇえええええぇっぇぇぇぇ」
大声をあげても、誰にも届かない。
俺はベッドから立ち上がり、新聞を拾い上げた。
<新時代の英雄"アレク官房長"特集!!>
そこには、俺が入院中の、あいつの功績が特集されていた。
―――
ギルド新報 特別号
<新時代の英雄"アレク官房長"特集!!>
ついに、
彼は就任早々、ギルド協会が最も脅威だと考えていた魔王軍幹部ヴァンパイアの撃破に成功した。
勇者ニコライとともに、パーティーを立ち上げ、史上最年少でS級冒険者に昇格した実力はやはり本物である。
まだ、弱小だった勇者ニコライのポテンシャルを見極めた先見性。
ヴァンパイア戦で、即席で構成されたチームをまとめあげた人望とカリスマ力。
数百年誰も倒せなかった魔王軍幹部3人の討伐に関与した実績。
戦場において見せる、抜群の分析力と戦闘センス、そして、自分を捨てることができる献身性。
勇者ニコライを超えるかもしれない光の魔術。
この数年間で示してきたこれらの実績によって、彼の能力は疑いの余地がない。今まで私たちは、現代は勇者ニコライの時代だと勘違いしていたのかもしれない。だが、真の英雄は、陰ながら世界を救っていたのだ。
これで、世界中の人間は勇者ニコライの不在を憂うことはない。
真の英雄は、ついに表舞台に現れた。弱冠21歳の英雄は、これからも彼は私たちのために戦い続けてくれるだろう。
―――
「アレクが、官房長?光の魔術?なに寝言を言ってるんだよぉ。あいつは、単なる器用貧乏で、俺のコバンザメだったのに?」
だが、北の大陸で撮影された光の翼の魔術写真を見て、俺は現実を叩きつけられた。
「俺の光の翼よりも大きい!?」
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。
そして、ふと冷静になると気がつくのだ。
俺は、もう誰にも必要とされていないことに……
「うそだぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁあぁ。
俺は、選ばれた人間なんだぁぁっぁぁぁああああああああぁっぁぁぁ。」
何度、絶叫しようが、それを肯定してくれる人は誰もいなかった……
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