第31話 殿下

「これで、一応全部終わったな!ボリスもありがとうな!」

「おう、アレク。お疲れ様!!」


 俺とボリスの仲は、今回のクエストで完全に修復された。

 イブラルタルに帰った後は、今回の報酬で高い酒を奢ってもらって、完全に仲直りだ。やっぱり、ボリスは本当に頼りになった。俺たちの夢を、一緒に見てくれると言ってくれたこと、本当に嬉しかった。


 ※


「俺はずっと熱病にうなされていたんだよ。ニコライのパーティー仲間だったから周囲にチヤホヤされて、長い物には巻かれて、やばい行動をしようとしていたニコライを止めてやることすらできなかった。仲間失格だ」


「だけどな、ナターシャさん?キミたちが俺の目を覚まさせてくれたんだよ。キミたちは、人類最強の男である勇者ニコライを倒した。キミたちの信念が、伝説の勇者すら倒したんだ。キミたちはにならなくちゃいけない。だから、ここは俺が守りきる」


「笑わせねぇ!ふたりの夢を、笑っちまった、俺が言える道理がねぇが、もう誰にも、あいつらの夢を、笑わせねぇ!アレクは、絶対にになる。だから、お前には笑わせ、ない」


 ※


 ナターシャもそうだろうが、このときのボリスの言葉を俺は生涯忘れることができないと思う。


「ボリスさん、私からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございます。あの時のボリスさん、本当にかっこよかったですよ。先輩がいなければ、好きになっちゃうくらいでした!」


「ああ、ナターシャさんのことを約束通り守れてよかったよ。ちなみに、アレクは、口ではあんなことを言ってるけどな、キミのことをいっつも自慢していてな?」


 ボリス、ストップ!俺の黒歴史を掘り起こすなと慌てて、あいつの口を塞いだ。


「私は結局、あまりお役に立てなかったですね。あなたに守ってもらってばかりでした」

「マリア局長も次があるからな。そっちで取り戻してくれよ」

「はい、がんばります!!」


「じゃあ、俺は一足先に艦に戻っているから。じゃあな」


「えっ!?私たち、これからお土産屋さんにでも行って、少しだけ観光しようと思っているんですが、ボリスさんも一緒にどうですか?それに、その後はルーシー王国の国王様に招かれて、祝賀会があるんですよ。ボリスさんも、チームの仲間なんだから、参加しましょうよ!」


「そうだぞ、ボリス。せっかく、宮廷のご馳走が食べられるんだ。チャンスだぞ。"命の水"とも呼ばれるうまい酒もたくさん用意してくれているそうだし!」


「逆に断るのは非礼ですよ!」


「悪い、その国王様と会うのには、1つ問題があって……」


 ボリスは珍しく顔色が悪い。なんでそんなに動揺してるんだ?


「いらっしゃったぞ、アレク様御一行と、ボリス殿だ!!すぐさま、確保しろおおおおお!!!」

 俺たちの前に謎の集団が現れた。というか、ボリス殿下って言わなかったか?


「やばい、間に合わなかったか……」

 ボリスはあきらめて、天を仰ぐ。


「えーっと、あなた方は?」

 俺はとりあえず謎の集団に自己紹介を求める。見た感じ、敵意はないのが分かっているが、一応、警戒しておく。


「申し遅れました!私はルーシー王国宰相・クトゥーゾフと申します。この度は国王陛下から、救国の英雄である皆様の接待を申しつけられているのです。観光したい場所などあれば、何なりとお申し付けください!」


「ありがとうございます!私は、ギルド協会会長官房長のアレクと申します。それで、宰相様、いまボリスのことを殿下っておっしゃいましたよね?」


 ずいぶん、元気な宰相さんだ。


「はい、アレク様。もしかしたら、ご存じないのでしょうか?そちらのボリス殿下は、我がルーシー国のです。私も、ボリス殿下の傅役 もりやくとして、長くお仕えしておりました。なので、見間違うわけがありません」


「えっと、ボリスさんってもしかして、王子様なんですか?」

 ナターシャも信じられないという顔で聞いた。


「もしかしなくても、れっきとした我が国の王族です。王位継承順位も第3位でいらっしゃいます!」


「「「えええぇぇぇぇぇっぇええええええ」」」


「あー、バレちゃった!」

 ボリスは、ついに覚悟を固めたのか、自分が王子だと認めた。


 王子様って、もう少し優男っていうイメージがあるのに――

 こんな筋骨隆々の立派な体の王子様でいいのか!?


「どうして、教えてくれなかったんだよ、ボリス!」

「悪い。さすがに、いろいろと面倒ごとになっちまうからさ。それに、色眼鏡で見られたくなかったんだよ」

「だからって、隠すことないだろ!」

「ごめん」


 ボリスはなぜか里帰りしたくないような雰囲気がビンビンだった。


「それでは、ボリス様、行きますよ?」

「爺、やっぱり俺も行かなくちゃダメ?」

「当たり前です。王もボリス様と久しぶりに会えるのを楽しみにしているんですよ」


「見逃してはくれないよな?」

「そんなことしたら、私の首が飛びます」

「わかったよ、行けばいいんだろう。宮廷世界は、ドロドロしててめんどくさいんだよ。王位継承権って、返上できないのか?」

「滅相もないことを、言わんでください。爺の心臓が止まっちゃいます」

「悪かったよ」


 こうして、ボリスの祝賀会参加も決定した。


 ルーシー王国が用意してくれていた馬車で、俺たちは港町・セイントペテルブルグを観光する。有名な海の近くの大聖堂も簡単に許可が下りて、ナターシャとマリアさんは興奮していた。


「先輩、すごいですね!この大聖堂、なかなか見学許可下りないことで有名なんですよ!!」

「そうなのか」

「はい、珍しい美術品がたくさんありますし、この構造も美しくて有名なんですよ。先輩とここをデートできるなんて最高ですね。すごい!ああ、ステンドグラスもオシャレで、綺麗!!」


「神官がそんな俗物みたいなこと言っていいのかよ?」

「いいじゃないですか!死にそうな冒険をして、頑張ったんですから!!」

「まあ、今回はナターシャの功績が一番大きいしな」

「そうですよ、少しくらいはしゃいでも罰は当たりません。まぁ、ずっと行きたかった場所を見ることができて、興奮しすぎて、我を失っているのは認めますが!」


「やっぱり、神官だからな。こういう場所を見ることができたら、それは興奮するよな」

「はい!でも、それだけじゃ、ないですよ?」

「えっ?」

「好きな人と、自分が見たい場所を一緒に歩けるなんて、幸せなんですよ?だって、私だって女の子ですからね!」

「ナターシャ……」


「あの時、先輩の手を握ることができて、本当に幸せでした。痛みなんて、どこかに吹っ飛んじゃうくらいで!あの時間が永遠に続けばいいのにって、不謹慎ですけど、そう思ってましたよ!」

「……」


「だから、先輩ありがとうございます!私にもっと、あなたと一緒にいられるチャンスを作ってくれて、本当に嬉しいですよ?もしかしたら、本当にあれが最後だと思っていたんですから――先輩だって、そうだといいんですけどね!私とおんなじ気持ちだといいのになぁ」

 いつになく、ナターシャが見られた。


「それは、俺のセリフだよ。あの時、おれを助けてくれてありがとうな、ナターシャ!お前がいなかったら、たぶん、俺はずっと腐ってた。こんな素敵な場所に一緒に来ることはできなかったよ。やっぱり、お前は最高の相棒だよ」

 再会した日の夜から今までのことを思いだす。


 ※


「だいたい、ニコライさんもニコライさんですよ。先輩が一番献身的にパーティーを支えてきてくれたのに、それに感謝するどころか罵声を浴びせて追放するなんて、筋が通りませんよ。そんな人だとは思わなかった。恋愛が絡むとひとってそんなに変わっちゃうんですかねっ!? こうなったら、私が闇討ちに行ってやる」


「先輩は、伝説レジェンド級の冒険者になるべき人です」


「あんたなんかには、笑わせない。先輩の夢を――私の夢を――私たちの夢を、あんたたちみたいなゲスには笑わせない。先輩、いつまで遊んでるんですか? 私たちの夢の前では、世界ランク1位最強なんて通過点でしょ。私にもっとセカイを、見せてくださいよ」



 ※


 このナターシャの言葉にどれだけ救われたのか。俺は、きちんと感謝を伝えなければいけないと思い、彼女の手を握った。みんなからは距離があるから、大丈夫だ。


「えっ?」


「本当にありがとう。ナターシャ!」


「急に約束破らないでくださいよ、先輩のバーカ」

 ナターシャはそう言いつつも、嬉しそうな顔で手を強く握り返してくれる。


 外は夕日によって、オレンジに色づいていた。

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