第28話 光の翼

「どうしてだぁ、貴様ぁ。どうして、勇者しかできない、光の魔術を使っているんだぁ」

 ヴァンパイアはたじろぎながら、絶叫する。さっきまでの余裕は、どこかに行ってしまったようだ。


「さぁな?この光の翼がなんだろうと構わない。醜いお前を潰せればそれでいい!」

「この下等生物がぁ。来るなら来てみろよぉ」

「弱いヤツ、卑怯なヤツほどよく吠えるんだよ」


 俺が突進すると、ヴァンパイアの触手が、それを防ごうと襲い掛かってくる。

 だが、もう避ける必要もない。


 光の翼は、まるで意志でもあるかのように巨大化し、触手から俺を守ってくれる。そして、触手は翼に弾かれて一瞬にして消滅した。


 これでヴァンパイアの攻撃手段は完全に失われた。俺は突撃を続ける。


「嘘だぁ。これじゃあ、本物の光の魔術じゃないかぁ。こんなの聞いてないぞぉ。勇者がいないから、俺は来たんだぁ。約束が、ちがうぅ」


「ごちゃごちゃうるせえんだよ、お前?」


「ひぃ」


「教えてやるよ、みんながお前に与えられた恐怖を、屈辱を、痛みを――すべて、お前に叩きこんでやる」


「許してくれ、謝るぅ。いやだぁ、死にたくないぃ」


「下等生物にやられる気分はどうだぁ?この吸血鬼野郎っ!」


 俺がそう叫ぶと光の翼はさらに巨大化し、ヴァンパイアの巨体を包みこむ。


「ぎいいいいいぃぃぃぃええぇぇぇぇえええぇl」

 体が外から融解していく痛みで、あいつは絶叫する。だが、まだ本体は生きている。ここで、甘えを見せてはいけない。


 俺は、ナターシャのがこもった剣を振り下ろす。

 斬撃は、光となってヴァンパイアの本体を真っ二つにした。あいつのもう一つの心臓がある頭はこの衝撃と光の翼によって少しずつ消滅していく。


「いやだぁ、死にたくないぃ。俺は不死身のヴァンパイアなのにぃ。永遠の命があるはずなのにぃ。怖い、痛いぃ、体がぁぁぁぁぁぁああああぁあぁぁっぁ。この下等生物どもめえええぇぇぇぇぇっぇええええええ」


 断末魔が聞こえた。あいつの体は光りの中に四散し、消えていく。

 いくら不死身のヴァンパイアでも2つの心臓がやられて、体が四散したらもう助からないはずだ。


「終わったな!」

 俺がそう言うと、光の翼は北の大陸全土を包むほどさらに巨大化する。

 限界まで巨大化すると、その翼は、はじけ飛ぶようにして分裂し、小さな光の玉になって、大地へと降り注いだ。


「ナターシャ、ボリス、マリアさん、みんな大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。麻痺もさっきの光のおかげで、かなり楽になった。傷もいつの間に塞がっちまったからな」


「先輩!うまくいったんですね、よかった~」

 ナターシャは俺の背中に飛び込んできた。今日のMVP様は、ちょっと涙声だ。


「アレク君こそ大丈夫だった、ケガはない!?」

 マリア局長も無事のようだ。本当に良かった。やっぱり、本体を倒したことで、毒も治ったんだろうな。


 眷属にされた人たちも、周囲に倒れているが、気を失っているだけで、寝息を立てていた。


「アレク、どうやったんだぁ、あれは、ニコライの光の魔術。違うな、それよりも強力な光だったぞ」

「ああ、あれか!あれは、ほとんどナターシャが準備してくれたんだよな。なっ、ナターシャ?」

「自分でもまさか、あんなにうまくいくとは思いませんでした、ちょっと恥ずかしいです」

「ふたりで納得していないで、ちゃんと説明して!?アレク君、ナターシャちゃん」


 ※


「ナターシャちゃんの手から剣に聖魔法を流し込んだですって!?」

「はい!」

「そんなこと可能なの?いくら、アレク君が魔法剣を習得しているからって……」


「できるかなーって、思って先輩と手をつないで、やってみたらできたんですよね。先輩の魔法容量は大きいので、全力で流し込んだら凄まじいものが、生まれちゃったみたいですけど」

「だから、あの時に、恋人たちの永遠の別れをよそおって、手をつないだのね。ヴァンパイアを油断させるために……」


「はい!そうすれば、時間を稼げると思ったんですよ。私が残っていた魔力を全部、聖魔術に変換して、先輩の中に流し込みました。ちょっと、意味深な発言っぽいのはなんで、気にしないでください!」


 かよ!?


「だけど、威力が強すぎるわ。あれじゃあ、ほとんど光の魔術じゃない!?」


「たぶんなんですが、私の聖魔術と膨大な先輩の魔力が共鳴して、すごいものができてしまったのかもしれませんね」


「ナターシャちゃんも、アレク君も呑気なこと言ってるけど、これはとんでもないことよ?この意味が本当に分かってる?」


「わかってますよ。先輩がこの手法で光の魔術を使えるようになれば、本当の意味でが生まれるんですからね」


 ナターシャは不敵に笑った。


―第七艦隊旗艦「アドミラル・イール」艦上―


「副会長、大聖堂付近から、謎の物体が!?」

「なんだと!?見せてみろ」

 ニキータ地方統括局長から、双眼鏡を渡されると、私はすぐにそれを覗き込む。突入班になにかあったのかもしれない。


 そうなったら、虐殺者としての汚名をきせられようとも、全艦による艦砲射撃をおこわなければいけないのだから――


「あれは光の翼!?光の魔術か!?」

「まさか、ニコライも現場に!?」

「いや、それはないはずだ。あの勇者は厳重に幽閉、いや、保護されている」

「じゃあ、あれは――」


「おそらく、アレク官房長だ」

 まさか、これは仕組まれていたことなのか……


 あまりにもタイミングが良すぎる。魔王軍幹部のヴァンパイアをトリガーとしたアレク官房長の成長を促進させる陰謀――


「副会長。北大陸に、全体回復魔法ヒールアスオールの反応があります!?」

「なんだと?それは、神話級の回復魔法じゃないか。たしかか?」

「間違いありません!!」


 完全に覚醒かくせいしたのか、アレク官房長!?


「アレク官房長の覚醒、これも間違いなく、会長の計画プラン通りということだな」

 眼前に繰り広げられる奇跡の瞬間を見ながら、うすら寒さを覚えていた。

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