伸びたうどんとあの日

伸びたうどんとあの日

 今日のお昼は、赤いきつねにしよう。忙しくてご飯の支度をするのが面倒な時には、決まって赤いきつねを食べている。だから、我が家には常に赤いきつねが常備されている。赤いきつねにお湯を注いで、キッチンタイマーを5分にセットして出来上がりを待つ。ピピピッとキッチンタイマーがなり、さあ食べようかというところで、呼び鈴が鳴った。

どうやら、宅配便のようだ。急いで玄関に向かい、荷物を受け取りテーブルに戻った頃には、うどんはすっかり伸びてしまっていた。汁はほとんどなくなってしまっているし、せっかくの美味しいうどんが台無しだ。仕方なく伸びたうどんを啜る。伸びたうどんを食べていると、どこか妙に懐かしく感じる。

 そういえば、息子がまだ赤ちゃんだった頃、お昼によく赤いきつねを食べていた。お昼寝した隙に、急いで支度をし、さあ食べようかというところで、息子は決まって泣き出すのだ。息子をふたたび寝かしつけ、ようやくうどんを食べる頃には、伸びてしまっていた。そして、いつまた泣き出すか分からないからと、掻き込むように食べていた。あの頃は、ゆっくりとうどんを食べられる日が来ることを、今か今かと切望していた。食べる直前に泣き出す息子を恨めしく思う事もあったし、伸びていない美味しいうどんが食べたいといつも思っていた。いつかそんな日が来るから、今だけの辛抱だと自分を鼓舞していた。

 そんな長男も、今年で成人だ。今では、長男と一緒に赤いきつねを食べる事もある。もちろん、熱々で伸びていないうどんを。あの頃、あんなに切望していた落ち着いて食事ができる日々は、今では当たり前の日常となった。

 もう伸びたうどんを食べることも、掻き込むように急いで食べることもなくなったけれど、伸びたうどんを食べていたあの日々が、今ではとても恋しい。伸びたうどんを食べると、あの小さな手を握って、温かくて柔らかい身体を抱き締めてあやしていた日々を思い出すのだ。

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伸びたうどんとあの日 @makitomo0322

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