弟が魅せるまぼろしは、美しく、もろく、儚かった

何をする気力も起きなくて、雨の音をきいていた。少年は空の洋盃を手に、ソファにもたれた。開いた筆記帳はめずらしく白紙だ。

「にいさん」

寝台でくつろいでいたはずの弟が、兄の隣に腰をおろす。

指先が触れあえば、青白い翅を広げた蝶が宙を舞う。

弟が魅せるまぼろしは、美しく、もろく、儚かった。


2022/6/6

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