第25話 燃えた額縁 (4)

 カインが戻ってきて、次の街に行くことになった。


 僕は自分のことを整理しきれていないし、何が起こったかも上手く理解できていなかった。自分が神であることを知っても、彼らの対応は変わらない。それが今一番の安心材料だった。


 カインに聞いても、何の神だったかはわからず、ロミィもアクレイも知らないと言う。ただあの魔法が神にしか使えないものだという事実だけがここにあり、僕を悩ませている。考えてもらちが明かないので、もう諦めることにした。一旦ね。


 これから知る機会はたくさんあるという。大きな街に行けば図書館があり、歴史や、運が良ければそれぞれの宗教に関する本まであるらしい。そういうところで地道に探していくしかないという。


 そんなことを考えているとロミィが突然喋りだした。


「多分これから……もっと大きなことに巻き込まれそう……」


 それにすぐさまカインが答える。


「そのためにはお互いを知らないとな。それも、自らを縛る大きなものまで、しっかりと」


「私への、嫌がらせ……?」


「いいや? そんなことはないぞ?」


 露骨にロミィがカインを睨む。きっと何か、刺さる言葉があったから、それを恨んでいるのだろう。


「ただ……それが額縁みたいだな……って」


「額縁か。つまりあれだな、お互いがお互いのことを知らなさ過ぎて、壁を作りすぎて、まるで額縁の中の絵を見ているみたいだ、的なやつか?」


「そう……そんな感じ」


 想像はできる。結局他人事みたいで、どうでもいい、けれどそのままだとこれからもっと大変な事件に巻き込まれた時の対処法が見つかりづらい、と言うことだろうか?


「じゃあ燃やさなきゃな、額縁」


「……へ?」


「中身と対面するには額縁が邪魔だろ? 燃やしちまえ。どうせ木か何かで出来てるだろ」


 それを聞いたロミィが苦笑いをする。求めていた答えとは違うのだろうけれど、こんな答えでもよかった、そんな表情だった。


 僕はふとした質問が頭をよぎる。今ここで聴いておかなければ、もう二度と聴けないような気がした。それは大した質問ではないけれど、どうしてだか、使命感に駆られていた。


「そういえばさ、どうしてカインは僕たちを買ったの?」

「どうして、か。難しいな」


 そう言って考えるそぶりをして、しばらくした先に出た答えは。


「わからない」


 だった。


「……買ったのに、わからないとか、あるんだ……」


 ロミィが呆れるように言う。僕も若干呆れてる。


「誰がどんな家に生まれたとか、記憶喪失だなとか、吸血鬼だな、とかっていうのはわかっていて買ったのは覚えている。だが、そこでどうして大金を出して買ったのか、理由はわからない。もしかしたら、ただ単に惹かれただけかもしれないがな」


 まさかカインの気分だけで買われていたとは思いもしなかった。意外というか、もっと先のことを見越して買われたのかと思ったけれど、勝った瞬間に関しては無計画だったらしい。カインらしいと言えばカインらしいような気がする。


「俺らお前の気分で買われたのかよ……」


 アクレイまで衝撃を受けていた。と言っても限りなく呆れに近い。


「そういや思ったんやけどさ、あの十億メルとかいうお金どうやって持ってきたん?」





「ん? あれは祖国の国家予算から引き抜いてもらったぞ?」






「「「国家予算⁉」」」






 僕とサクヤとアクレイが声を揃えて驚いた。ロミィは呆れつくしたのか、もうどうでもいい、どうなっても知らない、と言った顔でカインを見つめていた。


 その当事者であるカインはと言うと、やらかした、と言わんばかりの慌てふためき具合だった。


「あ、あー、えーと、うん。えー……」


 何か言い訳を考えているのだろうけれど、何も思いつかないのか、その場つなぎの言葉だけしか口には出ていない。


「カイン……もう諦めた方が良いよ。それはカインが悪い」


 ロミィにまで完全に見捨てられたカインが逆に哀れに見えてきた。しょんぼりしていたかと思えば、ゆっくりと話し始めた。


「私は……あれだ。これでも国家予算に携われるくらい偉い地位にいたんだ。だからまぁ、色々、私を犯罪者にした祖国への嫌がらせをだな……、しているんだ」



「陰湿……」

「グハッ……」



「馬っ鹿じゃねぇの?」

「ぐっ……」



「どーしたらそんなこと思いついたんですかねぇー」

「ギッ……」



「チビ……」

「ギャッ……」




 全員でカインを追い詰める。僕も便乗して全く関係のないことを言ったけど、多分バレていないはずだ。


「おい、オーヴェル。お前チビって言ったよな……」


「い、い、い、い、言う訳ないじゃないか! そーんなことするわけ」



 バレていた。



「だって事実だし……」


「事実だったら何でも言っていいとかそんな訳無いからな……覚えとけよ……」


 悔しそうにカインがそう言うと皆が笑いだした。こんな時間が、永遠に続けば良いのに、それが叶わないのが僕らなのだと思うと少し寂しくなる。



 僕らは先の見えない道を進む。次の街では一体何に巻き込まれるのだろう? できれば巻き込まれたくないけれど、これだけ多くの問題を抱えている人が集まっているのだ。何も起こらないはずがない。


 少しだけ胸を踊らせながら、この道を歩き続けた。

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