第15話 悪魔的な世界へ
俺は自分の知らなかった世界。むしろ知ってはいけなかった世界に一歩足を踏み込んでしまったみたいだ。きっかけは一通のメッセージだった。あれは確か美幸と再会した日だった。
メッセージの送り主は
悟から遊びの誘いがあり、言われるがままに連れていかれた場所は独特の熱気に包まれていた。
薄暗い部屋の中で数十人の男達がこれから起こることに備え、まるで戦闘準備をしているかのようだった。
「イチローは初めてだと思うけど楽しんでいこうぜ」
悟は俺の肩をポンっと叩くと、薄暗い部屋にぱっと光が指した。俺達の前方へと伸びている光はステージを照らしている。
そこには三人の女の子が立っていた。七色の光のシャワーを浴びながらアップテンポの曲が流れ、女の子達が踊りだす。
俺はいわゆる地下アイドルのライブに来ていたのだった。
彼女達はフューチャー娘というユニットらしい。悟が一人一人説明してくれた。
黒髪ロングで清楚な感じなのだが、パフォーマンスは荒々しいというか豪快な一面を覗かせるのが
一通りの説明を終えると悟は自分の世界へと入り熱い声援を送っていた。俺も見よう見まねで声援を送ると、センターの有栖来ちゃんと目が合い微笑んでくれた気がした。
「どうだった?楽しかったろ?」
「ああ、悪くはないな」
ライブが終わり興奮気味の悟には悪いが、俺にはそれほど興味は持てなかった。
「で、実はこれからが本題なんだ」
真剣な顔の悟が語り始める。
「センターの子いるだろ?」
「ああ、美来ちゃんだっけ」
「その子が今ストーカーに狙われているらしいんだ」
「そうなんだ」
「で、俺はそのストーカーをなんとかしたい」
「悟が?なんで?」
「決まってるだろ!好きなんだよ」
「は?」
悟は完全に有栖来 美来にはまっていた。
「まぁお前が好きなのはわかったけど、どうするつもりなんだ?」
「まぁ俺もバカじゃない。地下アイドルだからって簡単に繋がれるとも思っていない。」
「うんうん」
「だが、ワンチャンはあるだろ!」
悟の目は本気だった。本気のバカな目をしていた。
「そこでまずはストーカー退治だ」
「ストーカー退治って…具体的にどうするんだ?」
「彼女を尾行して、怪しいやつを捕まえる!」
「おいおいそれじゃ俺らも怪しいだろ…」
悟の計画は第二のストーカーを生み出すものだった。だが、悟の話を聞いているとそのストーカーの行動が過激になっているのはファンの中では有名らしく、彼女のSNSでも間接的に助けを求めていると捉えられる投稿が続いてると話題になっているみたいだ。
「そう、現実はそうなんだよ…悲しいがファンの少ないアイドルは俺達ファンも特定されやすく疑われても仕方ない…」
確かに今日も御世辞にも多くのファンがいたとはいえないし、あの小さな部屋じゃ顔も覚えらているのかも。まぁ本来ならそれは嬉しいことなんだろうけど。
「そこでお前の力が必要なんだよ」
「えっ?俺?」
「そうだ。イチローには悪いが正直こういう地下アイドルに興味が無いのわかっていた。本当の目的はこのミッションだったんだよ」
なにかのスバイ組織の黒幕のような雰囲気を醸し出し俺を重要任務に指命するかのようだが、ここは普通のファストフード店であり俺達はただ地下アイドルのライブを見てきた若者ってだけだ。
「まぁ仮にファン特定されてない俺が知らぬ顔で彼女を尾行することができるとしても、すでにライブが終わってハンバーガーを食っている俺らがどうやって彼女を見つけるんだ?」
「ふふ、地下アイドルファンを舐めてもらっては困るよ」
俺は嫌な予感がした。だが、その思いはハンバーガーを一口食べた時にも感じていた。
「彼女がユニット入りしてからの二年間のスケジュールとSNSの投稿から判断し、現在の行動範囲と過去の行動パターンから……」
つまりある程度の彼女が出現しやすい時間と場所を把握しているらしい。やってることは完全にストーカーと同じだろうと思ったが、俺は既に悟の術中にはまっていた。
「なるほどね。この店に来るまでにすべては仕組まれてたんだな。」
「ああ、やっと気づいたか…ライブの前に寄った店でのこともすべてお前の力を借りる為だよ」
俺は朝からの違和感が一気に回収された。なぜか欲しいものを買ってくれたり、ライブ代も飲み物代もここの会計も全部奢ってくれていたのだ。
「パチンコで勝ったからっていうのは…?」
「2ヶ月前からバイトのシフトを増やしただけの簡単な作業だよ」
俺は先に受け取ってしまった報酬に後悔したが既に時遅し。悟の悪魔的な作戦に足を突っ込むことになってしまった。
「成功報酬はもっと貰うからな」
「もちろん、すでに来月のシフトも増やしてある」
ストーカー予備軍のストーカー退治が幕を開けた。
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