第14話 嘘の中には

切れていたと思っていた繋がりが偶然的にも再び繋ぎ合わせられた。それとも繋がりではなく、新たな始まりといったほうがいいのだろうか。



「イチローは変わってないね」



俺の暗く思い雰囲気とは正反対の明るい調子で美幸は話続ける。



「まぁあれから結構経ってるからお互い色々あったかもだけど、やっぱり小さい頃から知ってると安心感あるよねー」



見慣れない美幸の顔とは裏腹にケラケラ笑いながら話す感じは俺の知っている美幸だった。

今の美幸の顔は世間的に美人と言われるだろうが、俺の主観では前の顔のほうがもっと美人だっただろうと思ってしまった。ただ、整形のおかげなのか傷痕が無くなっていることに俺は少し安心した。



「それで、友達に会いにきたんだっけ?」



「あぁ、ちょうどこの隣の部屋みたいで」



俺の言葉に美幸は少し曇った表情を浮かべた。



「ふーん…隣の人かぁ」



なにか不穏な空気が一瞬流れたと思ったが、ぱっと空気が一変した。



「あの子可愛いよね!」



美幸はニコッと笑顔を浮かべる。



「知ってるのか?」



その表情や空気感よりも華子の情報を優先し、少し声色が高くなってしまった。



「知ってるっていうか、ちらっと見たことあるぐらい」



やけにニコニコしながら話す。



「隣だけど、今の時代仲良く隣人付き合いとかないからねー」



「そうか、まぁそんなもんだよな」



「それに最近はちらっとも見ないかな」



「そうなのか?」



「てか、友達なのはイチローでしょ?あたしより知ってるんじゃないのー」



「あぁ、友達なんだけど…」



「なんだけど?」



「その…連絡が取れなくなって…」



「ふーん、あっ、そういえば!」



何かを思い出したかのように美幸はぱんっと両手を叩いた。



「一ヶ月くらい前だったかなー?大きなキャリーケースを転がしてる子があの子だったかもー」



一ヶ月前ぐらいだと、ちょうど連絡が取れなくなった頃と一致する。大きな荷物を持っていくということは自分の意思で家を出たってことなのか。俺は色々と思考を巡らせていた。



「その子のこと好きなんでしょ?」



「へっ?」



俺は唐突な美幸の質問に巡らせていた思考回路が一瞬停止した。



「当たった?てか凄い顔してなんか考えてたからさ」



今日一番の笑顔で話す美幸に違和感を感じた。



「てか、ごめんごめん。そりゃ心配になるよねー」



「いや、好きというか…」



俺はどういう風に言えばいいのかわからなくなっていたが、何かを察した美幸はうんうんと頷いている。



「よし、あたしが協力するから安心して!」



力強くそう言い放つ美幸に俺は押されぎみになってしまった。



「お、おう」



強力な協力者を得たのかは定かでは無いが、何も進展しなかった頃に比べたら良い方向に進んでいるのだとこの時は思っていた。



「なんかあたしわくわくしてきちゃった」



俺が悩んでいたのが馬鹿馬鹿しいくらいに美幸のテンションは上がっていた。だけど同時にそれはやっぱり俺の知っている美幸だと認識させることでもあった。

そういえば昔もやたら俺の好きな人とかを探るのが好きだったなと。まぁ小学生のませた女子はそういう傾向だと思っていたが、単純に美幸はそういうのが好きなんだろう。



「あ、ありがとな」



「とりあえずあの子が帰ってきたり、見かけたりしたら教えるよー」



俺は美幸と連絡先を交換した。その後は本当に昔に戻ったかのように会話をした。ただ、美幸のお母さんのことと転校したあとのことはお互いにまだ触れなかった。

話し込んでしまい結構な時間が経っていた。



「突然来て長居しちゃって悪かったな、そろそろ行くわ」



この部屋に入った時の緊張感はもう無くなっていた。



「ううん、懐かしい話できたしここ最近で一番楽しい話できたから良かったー」



「俺も久しぶりに楽しかったよ」



俺はバイトの時間も迫っていることと、美幸からの情報があることで華子の部屋を訪ねることなくマンションを出ていった。





イチローが部屋を出ると美幸は洗面台に向かい入念に化粧を落としている。化粧を落とし終えた美幸は鏡に映る自分の顔を見ながら小さく呟いていた。



「あーあ…あたしって嘘ばっかり…」



はぁーとため息をつきリビングへと向かい、ソファーにごろんと寝転がるとスマホに文章を打ちながらまた呟く。



「そっかぁ…華子のこと…」



美幸は打ち終わった文章の送信ボタンを押すまえに一息つくと、自分に言い聞かせるようについ口から一言こぼれてしまった。



「……大丈夫だよね…」



美幸はそう言いきかせるように送信ボタンに触れる。イチローのスマホは何かを警告しているかのように赤い光の点滅で受信を伝えていた。

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