第9話 見つけたのは光か闇か
華子と連絡が取れなくなってから一ヶ月が経とうとしていた。初めの三日間ぐらいはスマホを替えただけで、そのうち連絡がくるだろうと思っていた。
一週間過ぎた頃には心配になったが、華子と親しい人物や住まいなども知らなかったので連絡の術がなく、俺は華子のことを何も知らなかったことに気付いた。
三週間が過ぎると、華子に対しての親しい感情が嘘だったかのように平坦な日常を何も疑わずに過ごしていた。いや、沸騰していた自分の感情にあーじゃないこーじゃないという冷水を入れ続けていた。
そして一ヶ月が経とうとしている。俺は冷たくなった気持ちに小さな火を付けようとしていた。
それは頭の片隅にあった小さな記憶だった。そういえばあの二人のライブってそろそろだったな。俺は【三半奇感】というバンド名の路上であった二人のことをふと思い出した。華子がギターを弾いていた場所と同じ場所でやっていた二人なら何か華子のことを知っているかも。僅かな可能性だったが、目的地を入力したカーナビがルートを示すように道が開けた気がした。
調べてみるとライブは明日だった。ただの偶然だろうがギリギリ間に合う感じは何かを示唆しているものだと感じてしまう。
ライブ当日。俺は出掛ける直前に自分が書いた詞の紙が無造作に机に置いてあるのが目に入り、それをポケットに入れた。
ライブ会場に着くと思っていたよりも狭いところで、客の入りも数えるのに苦労しない程度だった。
演者と観客の距離も近く、学校の体育館をギュッと小さくしたような空間でライブ中も目が会えばわかるほどだった。
ライブはポップスやバラードなど、今風な感じというような感じで正直特別個性的な印象は無かった。
曲の合間にファン交流トークというものがあり、ヴォーカルの女の子がMCになって質問や悩み相談に答えるというものらしい。
そのファン交流トークの時間になり一人のファンが質問をした。
「私も歌うのが好きで文化祭で歌うことになったんですけど、日にちが近づくにつれてどんどん不安になってきちゃったんですけどそういうときってあるんですか?そうなっちゃったらどうしますか?」
中学生ぐらいの女の子がそう質問した。
「そうなんだ!不安になっちゃうのは緊張して失敗しちゃったらどうしようって思っちゃうってことかな?
確かに人前で何かするって緊張しちゃうよね
私も緊張はすっごくするけど、それ以上に楽しもうって気持ちで舞台にたつようにしてるよ」
ヴォーカルの女の子が質問に答える。そのあともちょっとしたプライベートのことや楽曲についてなどの質問が続き、最後の質問の時間になった。それまでは挙手であてられた人が質問していたのだが、最後の質問になると誰も手を挙げなかった。するとヴォーカルの女の子が唐突に指名した。
「それじゃあ そこの紺色のパーカーのイケメンのお兄さん!何かあればどうぞ!」
完全に俺と目が合いながら手の平をみせながら腕の方向もこっちを指している。俺は周りをささっと見渡すが該当するのは俺しかいない。イケメンというのはリップサービスだとわかっているが。
「あっ、えーと」
「急にふっちゃってごめんなさい!なければ大丈夫ですよ」
にこっと笑って締めようとする雰囲気になるが、俺はつい口から出てしまった。
「あの、華子って知ってますか?」
「えっ?はなこですか?トイレの花子さんとか?」
不思議そうな感じで答える声を聞いて、俺はどっと変な汗が出てくるのと恥ずかしさで顔が紅潮していくのがわかった。
「いや、間違えました なんでもないです」
俺は自分でも何言ってんだと思いながら一直線に目線を落としながら固まっていた。
「大丈夫ですよ!最後の質問だったのでムチャブリみたくなってしまってごめんなさいね」
フォローの言葉なのかはわからないが俺は恥ずかしさであまり聞き取れていなかった。それからはまた曲が始まりライブは終わった。少人数の為アットホームなライブだったが、それが新参ものの俺にとっては場違い感が凄かった。
最後にみんなで記念写真を撮るというので、他のみんなは喜んでいたが俺は複雑な気持ちだった。きっとその写真の俺の表情はなんともいえない顔だっただろう。
その写真撮影が終わった時にあの冷たい目の彼が話掛けてきた。
「お兄さん来てくれたんだ」
「あぁ、覚えててくれたんですね」
「いや、最後の質問のときに思い出しました」
「あー、あれはちょっと別のこと考えてたっていうか」
俺がばつが悪そうにしていると、彼は話を続けた。
「はなこって、もしかしてギター弾いていたはなこ?」
俺は彼から返ってきた言葉にすぐに反応した。
「えっ!そう!あの場所でギター弾いていたはなこ!知ってるんですか?!」
彼は少し間を置いてから答えた。
「知ってるけど、お兄さんははなことどういう関係ですか?」
俺は華子とどういう関係かといわれたら難しいと思っていると、何かを察してか場所を移して話そうということになった。近くに彼の行きつけの店があるらしくそこへと向かう。その道中はなんとなく二人共無言で歩いていた。
店に着き席に座ると彼は口を開いた。
「最初に言っておきます、俺ははなこのことを軽蔑してます。それでも話を聞いてくれるなら俺の知っていることを話します」
そういう彼の目はやはり冷たく、鋭く目線を突き刺してきた。
「軽蔑って…俺は正直何も華子のことを知らない…でも理屈じゃなく華子のことを知りたいって思って今日僅かな可能性でここまできたんだ…だから俺はどんなことでも聞くよ」
俺は小さな火がどんどん燃えていくの感じた。今日ここでのことが大きなターニングポイントになるような予感がしていた。
「そうですか…」
彼はテーブルに置いていた手をぎゅっと握りしめると俺の目を睨むように声を漏らした。
「彼女は人殺しです」
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