元親友の想いは届かない
「トシヤ。オレはお前と月宮さんが付き合えるよう尽力したつもりだ。だが、その月宮さんと別れて……あまつさえ凛花と付き合う、だと。悪いがそれは容認できる問題ではない」
元親友は俺の机に両手をつくと、グイッと顔を近づけてくる。
「ちゃんと
「だからといって、何故凛花なんだ……」
「何故って、凛花のこと好きになったから」
「お前本当にトシヤか?」
「は?」
「オレの知ってるトシヤはそんな奴じゃない。少なくとも別れてすぐ誰かと付き合う真似をする人間じゃない」
眼鏡越しに鋭く睨みを効かされる。
そんな奴じゃない……か。
その通りだろうな。もし、普通に恋人としてすれ違いだったり価値観の相違で別れただけなら、俺はしばらく誰かと付き合う事はしなかったと思う。
「じゃあお前はさ」
「なんだ」
「俺の知ってる真太郎の通りなのか?」
「どういう、ことだ」
「俺の知ってる真太郎は、キモいほどシスコンだけど誰かを傷つける真似はしない。隠し事するのが苦手で思った事はすぐ口に出す。決して陰湿な事はしない人間だって思ってる。……それに相違はないか?」
今度は俺が睨み返す。
元親友は特に動じる様子も見せず、小さく鼻を鳴らした。
「ああ、その通りだ。特に異論はない」
「そっか。……じゃあお前だけが俺のことを思い違いしてるんだよ」
「なん、だと」
頬を引きつらせる元親友。
本当に思い違いしていたのは俺の方だが
自嘲も込めて、わずかに笑みをこぼす。
「まぁとにかくさ、余計な邪魔はしないでくれるよな? 真太郎」
「……そんな素振り、なかったじゃないか。トシヤは月宮さん一筋で、凛花の事などオレの妹程度にしか思ってなかっただろう」
「あぁそうだな。でも、気持ちが変わったんだ」
「なら、なぜオレに相談しない? 月宮さんに告白する際は、あれだけウダウダしておいて、なぜ凛花にはすぐに告白できるんだ!?」
「んなこと聞かれてもな……。てかさ真太郎」
「な、なんだ」
「お前、まさか恋愛的な意味で凛花のこと好きだったりしないよな?」
ジッと目を見据える。
彼の目に動揺が走った。僅かに目を見開き、汗を滲ませる。
「だったらなんだ?」
「凛花はお前の妹だぞ。分かってるのか?」
「ああ理解している。だが血は繋がってない。
「邪魔も何もない。世の中早いモノ勝ちだ」
「……っ。なんで、こんなことになった……」
真太郎が額に手を置き、苦悶に顔を歪める。
しばしの静寂に包まれる。と、そこで割って入ってくる声がした。
「先輩っ♪」
薄茶色の明るい髪質。左側でまとめたサイドポニー。
余分なまでに胸に栄養のいった俺のカノジョ──凛花だ。
「どうしたの?」
「先輩に会いたくなって来ちゃいました」
凛花が教室に来る事は、事前連絡をもらっていなかった。
もしかすると、幼馴染が何かしてないか見張りに来たのかも知れない。
元親友の表情が複雑に歪む。
「凛花……」
「あ、居たんですね」
「そんなにオレは眼中に入らないのか」
「えっと、先輩と二人きりにしてもらっていいですか?」
他人行儀な物言い。
だがこれは血の繋がり云々は関係ない。単に彼らの間にある温度差によるものだ。
元親友は一方的に凛花に好意がある。しかし、凛花は兄に好意など微塵もない。
このすれ違いが、この距離感を生んでいる。
「どうしてトシヤなんだ……。他にいくらでも男はいるだろう」
「ところで先輩。さっき聞き忘れたことあるんですけど」
「無視……だと……」
胸元を強く握りしめ、愕然とする元親友。
そんな彼を傍目に、俺は凛花へと視線を向ける。
凛花はそっと俺の耳元によると、
「今日の放課後、時間空いてますか?」
放課後……今日は特に予定がない。
「うん。空いてるよ」
「よかったです。じゃあ、先輩の時間、私にください」
「わかった」
「……あっと、もうHR始まりますね。また後で来ます」
ヒラヒラと手を振って教室を後にしていく。
そんな彼女に手を振り返しつつ、俺は呆然とする元親友を一瞥した。
「ひとまずHR始まるし、真太郎も戻ったらどうだ?」
「……そう……だな」
とぼとぼと覚束ない足取りで自席に戻っていく。
そんな彼の後ろ姿を見送ることはしなかった。
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