元親友の妹とお泊りすることになりそうです
今日は一日中、元親友は落ち込んでいた。
浮かない顔色。どんよりと重たく、周囲を拒絶する雰囲気を纏っている。
幼馴染経由で、浮気がバレた件は彼の耳に届くかもしれない。いや、おそらく十中八九届くだろう。仮に届かずとも、勘繰るはずだ。
だが俺はそれで構わないと考えている。
そうすれば自分の犯した過ちを彼は自覚する。こうなった原因は自分にある、そう理解するはずだ。そのあと、彼の取ってくる行動次第で、今後の方針を決めたいと思う。
あわよくば、そのまま俺から距離を取ってくれるといいんだけどな。
帰りのHRが終わり、放課後を迎える。
元親友とは特に接点を持たず、俺は凛花のいる教室へと向かう。
その道中、隣の二年Dクラスから、ちょうど出てくる人物と目が合った。
「……っ。トシく……」
そこまで言って、声が途切れる。
朝の件が効いているらしい。彼女は俺が嘘を吐くときの癖を知らない(はず)。
だから凛花と違って、今朝の俺の言葉を正面から受け止めている。
「…………」
すぐに視線を逸らして、俺は凛花のいる教室を目指す。幼馴染は、しゅんと視線を下げると、それ以上何か言ってくる事はなかった。
凛花のいる教室に到着する。
一年Bクラス。ついさっきHRが終わったばかりなのか、まだ教室にいる生徒は多い。人波を掻き分けながら、凛花の元に向かう。
「あ、先輩っ」
俺が声をかけるより先に、凛花が声を上げた。
周囲にいる友達と思しき女子が、じろじろと俺を見てきた。
「もしかして、リンリンの彼氏さんですか?」
リンリン?
あぁ、凛花のあだ名か。
「うん、そうだよ」
「なんというか、思ったより普通って感じですね。もっとイケメンを想像してたのに」
「し、失礼じゃないかな」
「どうやってオトしたんですか」
興味津々といった様子で質問される。
すごいグイグイくるな……。
凛花は俺の腕に引っ付くと、友達を一瞥する。
「あーちゃん、眼科行った方がいいよ。先輩は超絶カッコいいから」
「うわぁ、ごちそうさまです」
「じゃ、私行くね。さっ、行きましょう先輩」
俺の腕を引いて、教室の外へと足を運んでいく。
周囲から向けられる視線の数が尋常ではなかった。
特に男子から向けられる嫉妬と絶望の入り混じった視線がすごい。
凛花は相当男子人気があるらしい。ひそかに、凛花を狙っていた人間もこの中には大量にいそうだ。
俺……明日から下駄箱に嫌がらせとかされないよな……。平気だよな?
「どうしたんですか先輩。汗凄いですけど」
「いやまぁ……今更、俺の付き合ってるカノジョが誰なのか理解したって言うのかな」
「これまで私のことなんだと思ってたんですか⁉」
「呪い殺されないよう気を付けないと」
「何の心配ですか! 先輩おかしいですよっ」
「てか、これからどこに行くの? 放課後の予定約束しただけで、どこ行くか聞いてなかったけど」
「急に普段通りのテンションに戻るんですね。先輩の情緒が私は心配です」
呆れと不安を混ぜ合わせた視線と表情で俺をみてくる。
ともあれ、これも軽いノリの範疇。本気で俺の心配はしていない。
二人横並びで歩きながら、凛花が俺の質問に回答する。
「だってこれから私、先輩の家にしばらくお泊りするわけじゃないですか」
「……っ。あれマジなのか……」
「ですです。ちゃんと親には許可取ってますから安心してください」
「安心できないよ。てか、よく親御さん許可くれたな」
「あ、さっきの私の友達、あーちゃんって言うんですけど、彼女の家に泊まるって言ってます。すぐにオッケーってスタンプが押されました」
「普通に大問題だった……」
そりゃ、女子友達の家に泊まるのであれば、門限の厳しくない家なら普通に容認するだろう。しかし、泊まるのが男。そのうえ、彼氏となればどうなることやら。
「いいじゃないですか。バレなきゃセーフです」
「アウトだから。なんでも言うこと聞くとは言ったけどさ、やっぱやめないか?」
「平気ですってば。それに、ママ……コホン、お母さんにはしっかり先輩の家に泊まる旨を伝えてますから」
「余計心配になったわ。もしバレた時、俺、お父さんに殺されるだろ⁉」
「お義父さんだなんて……先輩、結婚は気が早いですよ……」
「今、そんなこと言ってる場合じゃない!」
「でも、先輩がそうしたいなら私は──」
「俺の声聞こえてないのかな⁉」
勝手に話を進める凛花。そんな彼女に困りつつ、俺は小さくため息をもらした。
すると凛花は俺の手をぎゅっと握ってくる。
その手はわずかに震えていた。
「先輩と一緒に居たい気持ちは大前提なんですけど」
「……?」
「兄が、怖いんです。家に居たら危険な気がして……だから先輩、私のこと、守ってくれませんか?」
上目遣いで、まっすぐ見つめられる。
俺は彼女の手を握り返すと、目を見つめ返した。
「あぁ、絶対守る」
「お願いしますね」
凛花をウチに泊めるのは、褒められたことではないかもしれない。その結果、凛花のお父さんに殺されたとしても悔いは……。いやそれは悔いが残りそうだ。
だとしても怯えるカノジョを放っておく真似は出来ない。
「で、話逸れちゃったけど、結局これからどこ行くの?」
「決まってるじゃないですか先輩。お泊りグッズを集めに行くんです」
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