パートの案内係
今日も
「いらっしゃいませ。鍵はお部屋にございますので、こちらのエレベーターまでお進みください。
今日はバスツアーが多かったようで、エレベーターまでの誘導が多く、時折りいらっしゃった個人のお客様をお部屋にご案内するが、直ぐに終わってしまった。レストランか食事処の配膳の手伝いにでも入るかな。そう思った夕食が忙しくなりだす頃、お客様が途切れたタイミングでフロントの子に声をかけられた。
「
繁忙期じゃない今時期はそれほど忙しくない為、一気に押し寄せるツアーが終わればパートの時間は終わっていいとのことだった。
「折角早く終わったんで、ゆっくりお風呂浸かっていってくださいよ?三木さん達パートさんが居ないとフロントもまわんないから、わざわざ来てくれてありがたいんです」
誰も口にしないですけどね、なんて
この間浴場で会った時も、暗い表情をしていた。最近、体調まで崩し始めた彼女。化粧で誤魔化して仕事をしているが、こちらはパートでもベテランと言われるくらい接客しているおばちゃんだから、
「お疲れ様。大丈夫かい?」
「あ、三木さん・・・・・・お疲れ様です」
我ながら、大丈夫じゃなさそうな子に言うセリフではなかったと思う。案の定、苦笑いで返された。
とりあえず気を紛らせてあげようと隣に陣取り、服を脱いで洗い場に連れて行った。仕事上プライベートまで面倒見ると仕事しづらくなるが、構ってあげないと溶けて無くなりそうなくらい暗かった為、わざとかまい倒した。
「ほらほら!ここ座って!おばちゃんが髪も背中も悩みも流してあげるよ!」
無理矢理鏡の前に座らせて、髪や背中を流していく。途中、消え入りそうな声で「ありがとう」と聞こえたが、水音で聞こえなかったことにした。
一通り洗い終えると、熱めの湯船に連れて行く。
そんなおばちゃんの考えがわかったのか、彼女は少しはにかみながら黙ってお湯に浸かった。
「・・・・・・あのね、三木さん」
「なんだい?」
「・・・・・・私、結婚するんだ・・・・・・」
「そりゃおめでたいね!おめでとう!」
「ありがとう。それでね、この仕事なんだけど・・・・・・もう少しやりたい事あるんだけどね・・・・・・」
あぁ、この子は辞めていく人種の中でも、やりたい事が満足に出来なかったタイプなんだね。
「辞めちゃえばいいさ!」
「・・・・・・え?」
「それであんたが元気になるんだったら、いいじゃないかい。元気になってから、また好きなことしたらいいさ。まだ若いんだから」
驚いた顔に伝うのは、熱々の湯船のせいで流れた汗だということにしておいた。優しいこの子が元気に生きていくなら、おばちゃんも満面の笑みで送り出してあげようと、昨日の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます