反省会でしょうか
結局、管理棟内の別室に移動して、お茶を飲みながら三人で話すことになった。
「つまりね、僕ら聖剣院では、奥さんがレオンの婚約者となった時点から、公爵家と深く関わって悪いことはしないだろうという先入観に囚われてしまってね。あの男の良くない噂は流れていたが、それも結婚した後で構わないかと調査を後回しにしていたんだよ。これが先代伯爵の策略だったとすれば、まんまと僕らははめられたというわけで、此度の件は完全に僕ら聖剣院の落ち度なんだ。レオンからも耳が痛くなるほど聞いているだろうけれど、僕らからも謝罪の言葉を受け取ってくれないか?」
公爵邸の管理に抜けがあったのも、同じ理由だ。
特に邸の管理を一任されている執事長は、レオンが爵位を継いでからは若く未熟な公爵の実務補佐に重点を置いて仕事をこなしていたので、常に邸より外へと意識が向いていたのだ。
もちろんレオンもこれに同じく、寝食を行うだけの場所として邸のことなど蔑ろにし続けた。
オリヴィアが来る前に邸をよく整えておけ、と命じるだけで自身の目で確かめなかったことは、間違いなくレオンと執事長の落ち度だ。
そこには共通して『公爵家に何かする愚か者などこの世には存在しない』という意識が存在し、今回のような残念な結果を招いたというわけである。
世には予想をはるかに超えた愚かな人間がいること。
これはレオンやルカ、そして公爵家と聖剣院に携わる者たちが此度よく学んだことである。
「妻には俺から謝っている。お前たちの謝罪など要らんから、早く帰ってくれ」
「またそういうことを……ねぇ、奥さん。レオンは夫として大丈夫かい?」
「お前は俺の何を大丈夫だと聞いているのだ?」
「主に君のそういうところだね」
「どういうところだと?」
くすくすと笑い出したオリヴィアは、レオンだけでなくルカにも見られ、はっとして口を押さえた。
すかさずルカが柔らかく微笑み、「気にすることは何もないよ。僕らは対等なんだから。奥さんもレオンのように気安く付き合ってくれると有難い」と伝えれば、オリヴィアも柔らかく微笑み返すのである。
その笑顔に、ルカが言う。
「うん、レオンが惚れるわけだね」
オリヴィアに見惚れるような間を置かず、にっこりと笑い、ルカはレオンを見やった。
その目付きがとても愉快だと語っていて、レオンは顔を顰める。
「妻がお前と気安く付き合うことはない。諦めて帰ってくれ」
「悋気の夫がいると今後が大変だな。ただでさえ大変な公爵夫人であるというのに。さて──」
ソファーの背もたれに身を預け、完全にリラックスしていたルカは、急に背もたれから背を離して姿勢を正した。
「実は陛下から奥さんへの書状を預かってきたんだ。陛下も今回のことには、とても気を病んでいてね。どうか受け取って読んでくれるかな?」
「いえ、そんな。気に病むことなんて……あ、もちろん有難く拝読します」
オリヴィアがちらとレオンに視線を送れば、レオンは頷く。
「俺も共に読もう。構わないな?」
「もちろん。そのつもりで書いて寄越しているだろうからね。あの人は人に分かりやすく説明するのが苦手だからさぁ。婦人相手だから、いつもより分かりやすく書けとは言ったんだけど。どうせレオンの補足ありきと考えていつも通りに書いたんだよ。あぁ、そういえば。レオンの分も同封したと言っていたかな」
「……いくら父親でもその言い方はどうなのだ?」
「レオンだって、先代公爵には酷かったではないか」
「そんなことはない。俺はいつでも礼儀正しき素直な子どもだったぞ!」
「うわぁ、なんだか気持ち悪いことを言い出したよ、この男は」
陛下から直々の手紙に恐縮していたオリヴィアが、緊張感を忘れ、くすくすと笑っている。
幼い頃を知った妻に今さら取り繕ったところで意味がないことを、レオンは都合よく忘れてしまったらしい。
何やら必死で幼い頃の善行を喚いていた。
人は皆、都合良く出来ている。
と思ったルカだ。
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