早朝に呼び出された執事長と侍女長
公爵家に仕える執事長と侍女長は、揃って早朝からレオンの自室に呼び出された。
隣室に続く扉の向こうでは、まだオリヴィアは眠っている。
椅子に座るレオンの不機嫌さに、これはただ事ではないと感じ取った執事長らは緊張しているが、実はレオンがとてつもなく不機嫌な顔をしているのは、呼び出した二人だけが理由ではなかった。
昨夜は妻と大変有意義な夜を過ごしたレオンだったが、話に夢中となって気付けばすでに真夜中である。
そこで夫婦なのだからこれからは寝室を共にしようではないかと提案したレオンは、困惑する妻をなんとか説き伏せ、同じベッドで眠ることに成功したのだ。
それで寝不足となったレオンは、今朝は酷く気が立っている。
夜分遅くまで話していたとはいえ、普段のレオンの生活から考えれば十分な睡眠時間はあったはずだから、理由は察して欲しい。
「呼び出したのは、妻のことだ。お前たちには妻の世話をよくするよう頼んでおいたはずだな?」
結婚式はそれまでの長雨が嘘のように、まるで天に祝福されているかのごとく見事な晴天だった。
それが翌日からは一転、雨が戻り、ついには領内の一部の川に氾濫の兆候有との知らせが入って、レオンはこの対策に奔走していたのである。
そしてようやく天候も回復して数日。
この大雨で氾濫した川もあったが、領民を早々に避難させ対策を取っていたことで大きな被害は出ずに済み、氾濫した地域の復興の目途も立って、レオンが夜分にもかかわらず妻の元へと急いだのも昨夜のこと。
だがその久しぶりに会った妻は、どうもレオンの期待した通りに過ごしていなかったようなのだ。
「はっ。奥様が何不自由なきように細やかなお世話をするよう、私の方からも侍女長に指示を出しておりました」
執事長はちらと隣の侍女長に視線を送った。
私は知らんぞ、と言っているようでもありレオンは少々不快さを覚えたが、確かに執事長はその通り指示を出していたのである。
「はい。わたくし共も、奥様が何不自由なき様にとよく計らいまして、お世話に務めて参りました」
侍女長もまた、自分たちに落ち度があったとは思っていないらしい。
レオンの視線は一段と鋭くなって、目の前に立つ二人を順に睨み付けていった。
「とてもそうは見えなかったが。お前たちは本当に何の問題も感じていなかったのだな?」
執事長は責任から逃れられないことを悟る。
屋敷の使用人たちを統括する立場にあっては、侍女らのことはすべて侍女長任せというわけにもいかないことは分かっていた。
だがレオンが忙しかったように、執事長もまた、いつもにはない結婚後に必要な対応に加え、大雨の対策にと、とても忙しかったのだ。
それに奥様の世話となれば、侍女らの方がプロである。婦人に必要な細やかな配慮というものは、いくら執事長であっても侍女らには適わない。
「何か奥様に関して問題が生じていたということでございましょうか?」
「あぁ、そうだ。それもあり過ぎる。まず一つ目、オリヴィアの食事は一日一食であったそうだな?」
執事長がレオンの発言に目をひん剥いて驚いた。
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