第2話 Battle Between Two Man④

「アクルックス、折り入って一つ頼み事がある。身勝手なお願いだ」

 ある日の稽古後、ロウソクがゆらゆらとともる中、食卓でアクルックスはエニフからそう切り出された。

「何でしょう?」

 アクルックスは聞き返す。

「……あいつの、ギエナの事なんだ」

 エニフはテーブルに向かい合って座るアクルックスに目を向け話し始めた。

「お前も薄々気づいているとは思うが、あいつは人工人間を毛嫌いしてる。理由を聞いても、全く話してくれない」

 講演会の演説を聞いて以降、エニフは真剣に考え、そしてなるべく講演会に行くようになった。勿論人工人間を排斥する為では断じてなく、 ギエナと人工人間との問題の解決の糸口を探るためである。しかし講演を聞けば聞く程、ギエナに巣食う問題は大きな物であるように感じた。

「これが正解だとは断じて思わないが、何か一歩でも、あいつの中の何かが解消するなら、俺は諦めたくないんだ。アクルックス、無理は言わない。ただ、ギエナを───」

 エニフはアクルックスを真剣な眼差しで見つめた。

「あいつを、闇から引き上げたい。その事でお前が不利益を被ることもあるだろうが、どうか一緒にあいつを引き上げて欲しい」

 アクルックスはしばし考え込み、そして言った。

「分かりました。何をやれるか分かりませんが、エニフさんとギエナさんの力になれるなら」

アクルックスがそう言うと、エニフは嬉しいといったように微笑んだ。

「ありがとう、すまない」

 ──そうは言ったものの、アクルックスはギエナとは特段話をした事もなく、好きな物も分からないので、何をすれば良いのかも分からない。

 そんなある日、聖母子大聖堂の図書館近くを歩いていると偶然ギエナが本を探している所を発見した。

「……ギエナさん」

 アクルックスは勇気を出して、初めて自分からギエナに声をかけた。ギエナはこちらを向き、少し驚いたように目を開いたが、落ち着いたままこう言った。

「……あぁ、君……アクルックスですか。生憎今日エニフはいない」

「……はい。でも俺はギエナさんに話があるんです」

「……私に?」

「はい。……何の本を読んでいるんですか?」

「銃と蒸気機関の効率化の歴史の本だ。仕事をする上で少し調べたい事があったのでね」

「銃や歴史に興味、あるんですか?」

「銃の取扱は好みだ。歴史はそこそこ興味があるが、この本はその為では無い。蒸気機関の体内での効率化の歴史を調べたい」

 そうしてギエナは質問に答えていたが、しばらくしてこう言った。

「……済まないが、私はあまり君と話すのを好まない」

「何でですか?俺が小さいから?」

「いや、人工人間だからだ」

 初めてギエナと対話したものの、こうも率直に人工人間が嫌いだと言われ、アクルックスは少しモヤモヤとした。

「……何で人工人間だとダメなんですか?」

 アクルックスは疑問をそのままぶつけた。

「人工人間が好かないからだ」

「なぜ?」

「人工人間とは仲良く出来ない」

「じゃあ、“”となら、仲良く出来る?」

 その言葉に、ギエナの視界が一瞬揺らいだ。しかしすぐにその揺らぎが無くなったかと思うと、ギエナは小さく咳払いをして答えた。

「いや、君が人工人間である限り、君とは仲良く出来ない」

 そう言われたアクルックスは、小さくそう、とだけしか言う事が出来なかった。

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