第2話 Battle Between Two Man③
夕方、アクルックスとの稽古の後も、エニフは 広場のベンチに座っていた。
しかし暫くしてエニフはベンチを立ち、駐在所の自室に向かう事にした。
「……少しでも、あいつの事を知るために」
やはり、昨晩は、自身も言い過ぎていたと思う。あいつにだって、何らかの思想や信念はあるはずだ、それが例え自分には受け入れ難い考えだったとしても、ギエナの言う通り、それを他人に否定される言われはない筈だ。
「───熱くなったと謝って、もう一度話を聞くか」
そう思いながら、エニフは部屋へ帰ることにした。
そうしてから数日経つものの、ギエナとは普段通り、いつものように仕事をするだけで、話題を作る事が出来ない。さらにギエナは、最近頻繁に例の集会に行くので、話す時間も余計に少なくなった。
そんな日々が続き、季節は春になってしまった。ある日エニフはいつものように集会に行くギエナを見送ると、分からないようにギエナの後をつけて行った。自分も講演を聞き、少しでも話をするためだった。
講演会場は、建物が周りに立ち並ぶ噴水のある広場だった。人通りもなかなか多く、なるほど、ここで喋れば多くの人が注目するだろう。
その広場に、目立つ人だかりが出来ている。見るとその真ん中辺りに、ギエナがいるではないか。
「という事は、あの人混みがいつも行く講演会なのか?」
エニフはギエナに見つからないよう、その中に密かに入る事にした。
「どうぞ一部お持ちくださーい!」
人混みに入るとエニフはその講演の関係者から薄いパンフレットを渡され、前に行くよう勧められた。前を見ると、一段高くした場所にマイクを置いて、その前で誰かが喋っている。
「随分若い声だな……ん?」
そこに立っていたのは、何と驚く事に、アクルックスやリゲルと同じくらいかやや年上、11、12歳くらいの少年だった。
少年と言っても16歳か18歳か、そんな年齢の人物を想像していたのだが、まさかあの少年が、まさかいつもギエナが話を聞いているというアンタレスなのか?
「……昨今、私達、非人工人間を取り巻く状況はさらに複雑になり、私達はこの状況を一刻でも早くしなければなりません。という訳で、皆さんも集まってきて下さったので、ここで改めてどうして私達が人工人間を排除する必要があるのか、確認も込めて、僕、アンタレスが代表して改めて説明させて頂こうと思います」
そう言ってアンタレスは一呼吸置いた。
「結論から言わせて頂くと、人工人間はこの世界を生きにくく、そして
「……人工人間の事を何も知らねぇ癖に」
エニフはアクルックスや孤児院の人工人間の子供達の事を思い出し、
「感情論に見えるかもしれませんが、これは事実です。人工人間は他の種族より生きにくく、そして我々に危害を加えやすい。これは、20年も前から確認されてきている事で、実際に論文でも発表され、そして証明されています。パンフレットの12ページをご覧下さい」
喋り声に混じって、ページをパラパラとめくる音。開かれたそのページには、「種族毎の殺害事件の発生件数」や「種族ごとの体力及び知能力試験の結果」「種族毎の幸福感インタビューとQOL(
「皆さんも感じていらっしゃる通り、人工人間が殺害事件を起こす件数は、我々非人工人間が殺害事件を起こす件数よりも圧倒的に多い。これは何故でしょうか?機械の体を持っているとは言え、素体は我々と同じです。ですのでもちろん、彼らだって喜びや悲しみの感情は持ち合わせている。しかし、そうであったなら、彼らにも罪悪感や恐怖があるのなら、なぜ彼らの起こす殺人事件は、我々が起こすよりも多いのでしょうか?その答えのヒントとなるのが、二番目と三番目のグラフです」
アンタレスはそう言って、話を続けた。
「二番目のグラフは、一年ほど前に木星府が行った健康や生活に関する調査で、総勢数百人の被験者にスポーツテストと知能力試験をしてもらい、その傾向を調べてまとめたグラフになります。これを見ると、人工人間が、体力面でも知能面でも有意に劣っている事が分かります。つまり、人工人間は体力もなく、我々より考える力が遥かに弱いんです。これは、人口人間の元となる体が、死産や欠損を迎えてしまうような、とても弱い体だからだと考察ができます。それに、人工人間は考える力が弱い為、頭に上ってきたイメージで軽率に行動しやすい。だから、これは論理の跳躍かもしれませんが、もし仮に人を殺そうと思ってしまった場合も、気軽に行動に移せてしまうんです」
と言ってアンタレスは話を続ける。
「三番目のグラフは、街中で全種族にランダムに人に声をかけ、今の自身が感じている生活に対する幸福度や、社会に対する幸福度、そして年収などを約4000人にインタビューしたものです。その結果、人工人間の年収の平均は、非人工人間の年収の平均の約60%と言う結果になりました。また、社会的幸福度も、非人工人間よりも少ないように思われます。つまり、年収や生活に対する幸福度が非人工人間よりも低い結果、人工人間の社会に対する不平や不満が多くなり、それが一気に吐き出された結果、人工人間が起こす事件は、より多くなるのです。これは、非人工人間である人々にとっては、看過できない事態です」
エニフは、講演を聴きながら驚いた。
「我々はただ生活しているだけです。それなのに、ある日突然、不満を持った人工人間の怒りの中に、突然巻き込まれる事となる」
あのアンタレスという少年は、ただ人工人間を避難しているのではなく、論理的に人工人間の持つデメリットを挙げ、人工人間がいかに生きにくいのかを提示してきたのだ。
「もちろん、全ての人工人間が殺害事件を起こす訳ではありません。世の中には、もしかたら立派に社会に出て活躍する人工人間が出てくるかもしれない。でも、もし人工人間が生きる事に苦しさを、悔しさを感じているのなら、そこに終止符を打たねばならない。それが我々の使命ではないのでしょうか?」
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