赤いきつねの汁かけ飯

私之若夜

赤いきつねの汁かけ飯

 私が子供の時、カップ麺は急激に種類を増した。昭和も50年過ぎた頃の日本の田舎の農家で育った私にとって、ブラウン管のカラーテレビが普及し始めたこの頃のCMは、ものによっては番組以上の魅力があったものだ。特に、カップの即席うどんである「赤いきつね」は、衝撃的だった。それまでは、ラーメン一辺倒だったメーカーさんが突如うどんをさばき出したのであるから当然だ。商戦であり一種の勝負でもあったのだろう。そして、そんな思惑の中での武田鉄矢さんが出演していたCMにも不思議と引き込まれるものがあった。

「戦車が怖くて、赤いきつねが食えるかぁ!」

 今で考えれば、意味不明である。しかし当時は、あの戦車が前進する姿と武田さんが戦地と思われる中を走り抜けて、この言葉を発し、そして、赤いきつねを引きつった顔で、一生懸命すすっている姿に何故かリアリティを感じた。

 にしても、私は正直、味に関しては半信半疑だった。ところがである。流行に案外弱い父が、早速箱で買ってきたので、みんなで食べてみたら、おいしいではないか。その時に中に入っていた「きつね」いわゆる「おあげ」は今と比べたらそれほど印象に残るものではなかったが、汁がとにかくおいしいし、麺も思ったより食べごたえがあり、びっくりしたことを覚えている。多分そのせいであろう。今でも私は即席麺はラーメンよりもうどんのほうが好きである。

 こうして、「赤いきつね」ファンになった私は、家族が呆れるようなあることを日常的にするようになった。それは、今で言う「汁かけ飯」である。先にも述べたが、この即席麺は汁がおいしい。だが、ただ美味しいだけではない。麺に程よく味がしみやすい。麺の製法にも何かそうなりやすい工夫があったのかもしれないが、同じように、ご飯にも味がよくしみる。わざわざ汁で煮込む必要はないのだ。

 これは、家族の中で私だけがやっていたことである。きっかけは、若さゆえの食欲である。お腹が空いて「赤いきつね」を食べる。食べ終わったが、なにか物足りない。汁がまだ容器に残っている。うどんの替え玉もいいが、あいにく、うどんはない。そこで、代用品はないか考える。朝の残りご飯があるじゃないか。試しに入れて食べてみる。美味い。やっぱり美味い。傍から見れば、あまり行儀のよいものではないかもしれないが、美味しいものは美味しい。こんなに米飯に合うとは思ってもみなかった。そしてさらには、「赤いきつね」をご飯のおかずにしてしまうという食べ方も。ご飯に、汁を纏った麺を乗せて食べるのが最高だった。炭水化物に炭水化物。栄養的にはバランスは良くないし見た目もあまり頂けないが、食べれば当然美味いのである。さすがに、これには周りも呆れきっていた。当の私が、どれだけ幸せな気持ちでこれを食べていたかは言うまでもない。「赤いきつね」の「シメの汁飯」は、今でこそしないが、当時はマイブームだったのである。

 というわけで、私のような消費者もいるという情報提供も兼ねてこんな駄文を書かせて頂いた次第である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤いきつねの汁かけ飯 私之若夜 @shino-waka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ