この世に天職はあるのだろうか?(B面)

@hogehoge1192

第1話



私には、兄妹当然に育った2人がいた。


今にして思う。なぜ、あのような事になる前に。

彼女を。

彼女を、彼女を。

強引にでも連れ去らなかったのか。


私の頭は悪く。

彼の頭はよかった。

組織に属せなければ生きられないこの街で、当然のように彼は組織の事務員となり、

私は組織の兵隊となり、暴力を行い、そしてそこでもやっていけるのかどうかが

危ぶまれたところで、軍に入隊した。


何度も私たちは3人で出会った。

私は彼女に惹かれた。

彼女も私のことが好きだったのだと思いたい。


しかし彼女が選んだのは彼だった。

だから私はそこから逃げるように軍に入隊した。

あの時は逃げたかった。ただそれだけにすぎず、私は彼と憎み、彼女も憎んだ。

軍は有意義ではあったかもしれないが、私の乾いた心をいやすほどではなかった。


休暇に彼女と彼にあい、幸福な彼女の姿を見る度に、私は悲鳴をあげそうになった。

彼女は大きくなったお腹をさすりながら、幸せそうに微笑んだ。

その隣で彼もまた朗らかに笑い、私は、いたたまれない気持ちになりながらも、

その2人を祝福した。


私はますます軍の任務に傾注し、私は特務部隊に入隊し、海外に出歩くことも多くなった。

組織は軍にも影響を及ぼし、組織の任務もこなしていた。


何故私は止められなかったのか。

わからない。

復讐のつもりだったのか。

それもわからない。


ただ、わかっているのはいつのまにか、彼女と彼は麻薬に耽溺していたこと。

その原因は金だったのかもしれないが、敵対する組織がそれを介助したのかもしれないこと。

軍の任務中に偶然そのことに気づいたとき、私はそれを組織に伝えず、彼と彼女が

落ちていくのを見とどめていた。


あの時、もしかすれば。彼女だけでも救う道はあったのかもしれない。

既に子供が生まれ、娘たちのために生きていく彼らにとって、彼の賃金だけではやっていけず、

彼は麻薬に手を染めたのかもしれなかった。

そして彼女はそれに結果として参加し、その肉体までも捧げ、狂乱の宴を行うのだった。


私はそれを知りながら、組織に伝えることなく握りつぶしていた。

が、組織は彼の横領と裏切りを知り、私が任務によって外に出た時、それは起こったのだ。


そこで私は片目と片腕を失い、彼と彼女の元に来た時。

2人は既に粛清され。

それを愕然として見ている彼女の娘がおり。

周りには組織の人間たちがいた。


その後起こったことについて私は何も止めることができなかった。

しかし壊れかけたその少女を洗いながら、私は彼女に選択を迫った。

彼女がそこで何を答えるかも知りながら。


私は彼女を殺したかったのか。生き延びさせたかったのか。

彼女は当然のように復讐を選び、組織と私を含めたものたちを殺すことを誓いつつ

私の弟子となることを選んだ。


私は軍から脱退し、組織の専従となり、そのそばには少女がいた。

私は少女を憎んだ。

彼女の面影を残す少女を。

徹底的に鍛え上げ、そして少女は生き延びていった。

しかし私は彼女が夜な夜な悲鳴をあげて起き上がるのを無視した。

逃げたのだ。


彼女が本当に求めていたものを知りながら、私は彼女にそれを与えなかった。

私のように。


憎い。憎いのだ。

この少女が。

この少女の責任ではないとわかっていても。

彼女がいなければ、あるいは彼女が生まれる前に私が行動していれば。

何故この少女は生きていて、彼女は死んだのか。


わかっている。私が臆病だったからだ。

彼に獲られる前に私が手に入れなかったからだ。


彼女の想いを私が考えなかったからだ。

あの男が彼女を襲ったとき、私は彼女を救わなかったからだ。


私は、組織の中でもトップとなるぐらいの殺し屋になったはずだ。

なのに現実は一人の女性も救えず、一人の少女を憎むだけの男にすぎない。


他の女たちでは、彼女の代替えにはならないことを、私は日々痛感する。


声なき叫び。

私は私を許すことができず。


私は少女の声なき叫びを聞かないように耳をふさぐ。



敵対組織との抗争が激化している。

ボスが私を呼ぶ。私は少女とともに来訪する。


ボスは事実を伝える。

少女はショックを受ける。

私はそれを無視する。



夜。

少女は私のところにやってくる。

私は物思いにふける。

彼女のことを思い出す。

彼女は娘の面倒をみてくれと言った。

面倒?俺が?なぜ?

あなたにこそみてみほしい。

なぜ?

今だにあの理由はわからない。

今も。

彼女は笑いながら私に伝える。

あなたにも救われてほしいのだと。

ではあなたこそ救われていたのか。

彼女は娘によって救われたと。

親になったことのない、なることのない私にはわからない。


その泣き顔は彼女にどこか似ている。

私はいつものように殴ることができない。

私は彼女を抱き寄せ、なでる。


どこかで銃の音が聞こえる。

私の感覚はこの場所の危険性を伝える。

逃げろと。この少女を放っておけと。

しかし私は彼女を撫で続ける。


少女は泣き続ける。


銃声。

私は衝撃を受ける。


襲撃が始まったのだ。



私は告解をする。

お前の両親を殺したのはわたしなのだと。

少女は呆然とする。

敵が迫るのを感じる。

しかし私は何もできない。

私も疲れていたのだ。

疲れた。

彼女の元に会える。

それだけを私は考え、呆然とへたりこみ、敵の男たちに捕まれる少女を

しかし助けるための行動を行おうと身体を動かそうとする。

しかし動かない。


私は、また彼女を失うのか。

衝撃を受ける。


しかし私は何もできない。

いや、最後の力を振り絞り、少女の元にひそやかに武器を送る。


そこで私の体力は尽きる。



信じられないことが起きる。

少女は今まで見た中で最も優れた動きで男たちを排除する。


少女の雰囲気が別の存在のように感じられる。

恐怖、そう恐怖と畏怖を彼女から感じる。


私は彼女に逃亡することを指示する。一人だけでも逃げるのだと。

返事の替わりに彼女は私にキスをする。舌が私の口内を蹂躙する。

私は驚愕とともにそれを受け入れる。

彼女は私を支配し始めている。


遅い。


彼女は私の口癖を真似する。

彼女は私が愛した女性の姿をもって、しかし私よりも強い存在となったことを私は知る。


私を殺すことなく生かす気なのだと私は知る。

よりにもよって最も敵対勢力たちが迫るであろうボスの寝室奥の医療室にまで向かうことを宣言する。

しかし彼女にかつての弱さを感じない。

その瞳は、目覚めたかのように何かに燃えている。


私はそこで知る。


この世に天職はあるのだろうか?

私はあるのだと知る。


END






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