一章①
年中祭りのように
『見つけたぞ、睡蓮。
ほっとしたような
そのまま手を引っ張って、
『案内したい場所がいくつもある。まあ、今日で時間が足りなければまた今度だな』
──今度? 今度なんてない。だってわたしは……死んだのだから。
〇 〇 〇
はっと目が覚めると、わたしは横になっていた。周りを見ると、朝の日差しが差し込む中、同じ宿の大部屋に
理由は何となく分かっている。きっと王宮のすぐ側にいるからだ。
「……しっかりしなくちゃ。今日こそ
そう、今のわたしは西燕国の女王・睡蓮ではない。弟に会うため都を
わたしは十七年前に西燕国の農民の第一子として、どういうわけか二百年前に死んだ前世の自分──睡蓮の
そうと知った日、村の人たちは雪那が王になればきっと不作を解決してくれると喜んでいたが、わたしは喜べなかった。どうして今度は雪那が……と青ざめたわたしを
それから一カ月
安宿から出て大通りを進んだ先には、白く美しい大きな王宮がある。
その正門で、今日もわたしは衛兵と
「本当に新王の姉なんです! どうして会わせてもらえないんですか?」
わたしの
「そう言われてもなあ。昨日も
しっしっと犬や
首都に着いてからもう三日も
かつてのわたしが王だった
「いつから家族さえ王に会えなくなったんですか?」
「いつからって、少なくともお
にやにやと笑って衛兵が言い、別の衛兵も鼻で笑う。
この国に伝説として伝わる千年王が農民出身であることは、伝わっていないらしい。農民様という皮肉気な呼び方に、不快感を感じて衛兵を
西燕国は、かつては農耕が
正確には百年前に一度王が立ったが、治世は数年と短いもので安定するには至らず、その時代の政策は民の反感を買ったと言われている。そしてまた前王の時代から百年の時を
「いいよなあ、神様に選ばれただけでただの農民が
わたしは、もっと聞き捨てならないことを聞いて耳を疑った。
「失踪ってどういうことですか?」
「ああ、陛下は部屋に
わたしはさらに耳を疑いたくなった。
弟は気こそ強くないが、引きこもったり
それが事実だとしたら、弟を取り巻く
「あーあ、百年
衛兵がぼやく
雪那は──農民出身の次期王は、ほとんどが貴族出身の臣下の中で周りと
まずは雪那の様子を確認して、場合によっては首都で働き口を探して時々会いに行こうと思っていたけれど……
だが雪那の身に何かが起きているのだとしたら、なおさら大人しく引き下がるわけにはいかない。何か、弟に会う手段はないだろうか。
「そろそろどこかに行かないと、不審者として
「なっ……!」
衛兵が軽口のように言うが、やりかねないと思って、反射的に身構える。故郷の役人は、自分が法であるかのような横暴な振る
「失礼」
「──蛍火?」
反射的に名前を呼んでいた。
衛兵が退くと、正門の前に背の高い男が一人立っていた。
まず目を引いたのは、銀色の
蛍火。前世わたしが王であったとき、最も側に、最も長くいた男だった。
「神子様!」
衛兵はわたしの
今のわたしは花鈴だ。睡蓮ではなく、花鈴。前世は終わった。容姿は同じであっても、新しくこの世に生まれ直したただの人だ。
王や神子の名前は、民には知られていない。衛兵にわたしの声が届いていなかったのなら、彼にだって聞こえていないはずだと思って、衛兵に
まさか蛍火がまだ王宮にいるなんて……。王の
しかし、とん、と。肩を
「顔を、上げてくださいますか」
「……いえ、とんでもありません。わたしは王宮に入ることも許されない身分ですので、神子様の前で顔を上げることは
神子とは、神のお
王に次いで畏れ多い雲の上の存在なのだから、そういう態度を演じなければ。
「
「神子様に知り合いはいませんので、他人の空似かと思われます」
顔を見られていたようで、内心
蛍火は、整った顔立ちを少し
「それならなぜ、私の名を知っているのですか」
どうやら、聞こえていたらしい。わたしは押し黙るしかなかった。
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