プリータ王国編

1にゃ にゃんこの立場。


 われは猫で魔王。

 だが、元は人間。

 人間だった時の記憶はもう、ほとんど覚えていない。


 気づいたら子猫になっていて、この見知らぬ世界をよちよち歩いていた。

 そしたら突然、捕まえられたのである。

 そいつはレイン。


 今ではわれの仕事をやっている、

 優秀な男だ。


 奴は最初われを捕まえたら、拝んだのである。

 われは意味が分からず、困惑した。


 これはあとから聞いた話だが、この世界の猫は魔物であり、魔族の英雄とも言われているそうだ。

 昔いた猫が、魔族を救ったとか救わなかったとか。


 そして寝て、食べて、毛づくろいをしていたらわれは、いつの間にか魔王になっていた。  

 レインがわれのことを魔王にしたらしい。


 どうやったか知らないけど

 正直魔王なんて、別に適任がいると思う。


 などとベットの上で、真っ白なお腹を出しながら考えていた。


「にゃ……」

「―ッス……いかがなされましたかミーニャ様?」


 われが呼んだらどこからか、ベットの横にそいつは来た。

 こいつはわれの専属メイドのリーラ。

 メイド服を着ており、金髪ショートだ。

 アネット程ではないが、谷がある。

 うん。

 程よい谷だ。

 

「お腹空いたにゃ…………カテオ」

「どうぞ」


「むしゃむしゃ……」


 無心で食べる。


「ネボシ」

「どうぞ」


「ボリボリ……」


 無心でかじる。


「撫でるのにゃ」

「はい」


「ナデナデ……」


 無心で撫でられる。


「抱っこにゃ」

「はい」


「スリスリ……」


 無心でスリスリする。


 うん。

 われ魔王。

 偉いから当然。


「って……。ちがうのにゃゃゃゃゃ!!」

「いかがしましたか!?ミーニャ様?

 何か粗相をしましたでしょうか……?」


 リーラはわれが腕の中で暴れたせいで、自分が何かやらかしたのだと勘違いし、真っ青な顔をしている。


「っあそうじゃないにゃ。

 われのたちばがおかしいにゃ」

「立場ですか……?魔王様は魔王様ですよね……?」


 リーラは顔に?マークを浮かべている。


「いや……。そうにゃんだけど……そうにゃなくて……」


 ん?

 魔王だけど。

 魔王?

 ん?

 にゃんだ……?


「えっと……」

「むにゃゃゃ!!レインを呼ぶのにゃ!」


 あいつがいれば全部解決する。

 奴は、われの扱いがうまい。

 呼べ呼べ!!

 

「レイン様は、魔王様の代わりに人族のプリータ王国の現国王に、挨拶しに行ったんじゃないんですか?」

「そうだったにゃ……じゃあ!アネットはどこにゃ!」


 許可なく撫でられるのは嫌いだけど、アネットに撫でられるのは別に嫌じゃない。

 撫でてもらって全部忘れる。

 それでいこう!


「アネット様は先日魔王様が、御自分をいじめた罪と言い、修行に行かせたんじゃないですか?」  

「むぅぅぅ……。じゃ、じゃあゴウジはどこだにゃ!」


 ゴンジに相談し………ないで、いや遠回しに相談すればいい。

 あいつもいざとなれば役に立つからな

 うん。

 たぶん。


「ゴウジ様は新しい敵を求め、放浪の旅に行くと言い、出ていったじゃないですか?」

「にゃゃ!もう、バークで我慢してやるにゃ!!」


 バーク……

 バークはそうだ。

 あいつの顔を見て、笑って、忘れられるかもしれない。

 うん。


「バーク様はギャンブルをするために、レイン様と一緒に行ったじゃないですか……」

 

 リーラが呆れ顔で言ってきた。


「にゃ……にゃ……ずるい!!」


 われだけ残して。


「……え?」

「ずるいずるいずるい!我もどっか行きたいのにゃ!この城飽きたにゃ!」


「そ、そう言われても……」


 リーラが困惑している。

 だが、われはいいことを思いついた。


「そうにゃ!一緒にレインのとこに行くにゃ!」


 そうすれば全部解決する。

 われがレインと一緒にいられる。

 そして、リーラはサボれる。

 われって天才。

 さすが魔王。


「それは流石に……」

「もともとわれが行く予定だったんにゃ。

 なら、われが行ってもおかしくないにゃ!」


「そう、ですね。行きましょう」


 リーラは渋々納得した。


「でも、どうやって行くんですか?馬車だと、一月はかかりますしその頃には、レイン様は帰ってると思いますけど……」


 最もな質問。

 だが、われにはこういう時のとっておきがあるのだ!


「ベットの下にある箱の中身を見るのにゃ!!」


 リーラはわれをベットに降ろし、箱を開けた。


「こ、これは……。でも、なんでこんな所に?」


 訝しげにリーラがわれのことを見ている。

 それもそのはず。

 これは、世界でもっとも貴重なスクロール。

 転移魔術のスクロールだ。


「ふふん。

 この前サリィのとこから、盗んできたのにゃ!」

「え……。サリィ様から怒られますよ……」


 む?

 怒られる?

 盗まれたのが悪い。

 われは悪くない……にゃ!


「いいから行くにゃ!

 リーラ、お願い」

「はぁ〜わかりました」


 リーラはわれを右腕で抱きながら、左手でスクロールに魔力を込める。


 われのわがままぼでーを片腕で持つとは……

 リーラって見かけによらず力持ちだな。


 そんなことを考えていたら、辺りが真っ白になった。

 これは、転移スクロールを使った時に起きる空間。

 われはなんだかわからないが、サリィ曰く


『時空の狭間』


 らしい。

 なんか単語はかっこいいけど、なんの事かさっぱりわからない。

 

 あっそうだ。

 レインに新しく考えた名乗りしてみようかな。

 

「そろそろです」


 リーラがわれを大事そうに抱きながら、そう呟いた。


 そうか。

 なら、準備するか。


「着いたら、われの肉球を触るのにゃ!」

「?はい。わかりました……」


 なんの事か分からないだろう。

 リーラもあの名乗りは知らないから、さぞびっくりするだろう。

 にゃふふふ……。


 そんな時、肉球が触られた。

 われは息を深く吸い、


「われは!魔族を統べ、見る者すべてを魅了するぼでーの持ち主!魔性の猫………ミーニャっにゃ!」(ドドン)


 よし決まった。

 ふふん。

 目を瞑っていて反応はわからない。


 けどたぶん今、レインは驚いて言葉が出ていないんだと思う。

 目を開けたいが、ここで開けたらすべてが台無しだ。


「………………」


 体感1分は沈黙が続いた。


 あれ?

 レインいないの?

 み、見てもいいかな?

 いいよね?


「ま、魔王……」

 

 聞こえたのはレインの声ではなかった。


 目を開け、声のした方を見るとそこには、白い髭を生やしている、王冠を被った偉そうな男がいた。



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