愛しと鳴く代わりに

花山至

第1話

ふらりと現れた男がニタニタニタニタ私を見て笑う。

私はそれを見てグルルと喉を鳴らす。

媚びて鳴いてやると面白いくらい機嫌が良くなる。

時折爪を立ててやると、おっと眉を寄せるがそれも具合がいいらしい。

ぞんざいに扱ってやっても愛好は崩れない。

ちょっと飲み込む山椒にどうやら味を占めたらしい。好きモノな男だ。

私の方はと言うとそんな男が列を連ねるものだから辟易する。偶には此方が骨抜きになる男に粗雑にされて、それに縋ってみたい。

それを厭わしそうに振り払われるなら、こんなに気分の良い事はない。

媚びる度に嫌われてみたい。

そんなまたたびを私だって……。


艶やかな唇に煙管を咥えて、そんな事を言う女がいる。

ともすると牝猫の様な女はおれの馴染みの遊女だ。おれの身体にしな垂れて話すことじゃあないと突っ撥ねるのは難しい事じゃないが、酒の入った身体は酔狂な話を肴にするかと笑っている。

「そりゃ、おれみてぇな男のことかい?花猫や」

「やぁですよぅ。旦那だってイイ男には違いないけど、アタシはもっとぶっきらぼうなのが好きなのサ」

「おいおい。仮にも客前で喋ることじゃないだろ?」

「あれ。怒ったのかい旦那様。よしとくれ。旦那が嫌いでこんな事を言ってんじゃないのサ」

「ほぉ?じゃ、おれに餅焼かせようってのかい」

猪口を置いて、女の手首を握ると、手本の様に猫は顔を赤らめた。可愛い可愛い飼い猫だ。

「もぅ。だって随分イイ時間だってのに、旦那はずぅっと酒がコレじゃないか」

桜貝の爪先が可愛らしい小指を、ツンと立ててぶすくれる。

興が乗った。

話は捨てて、床に女を引き摺り込んだ。喘ぐ声が態とらしく無いのが気に入りだった。

衣を剥いで、身体を好き勝手に舐めて啜って、男が欲しいと泣くそこに埋め込んでやる。

「お前の下に通ってもう二年になるな」

腰を進めながら、一房溢れた髪に唇を落とすと、女は身体を震わせながらそうだねぇと応えた。

「なんだ。まぁ、おらぁお前を粗雑に扱ってやれねぇが、おれの女にならねぇか猫よ」

花猫は眼を輝かせて投げ出していた両の手をおれの首に掛けた。

「本当かい?」

「嘘はいわねぇさ」

「嬉しい!旦那のかかぁなら大歓迎だよぅ」

「なら、今からお前はおれの女だ」

「うんうん!」

果てる時に合わせて、女の首を絞めた。驚いた顔のあどけなさと、手首に食い込む爪紅が劣情を煽る。腹の底から快感が襲う。

「だん、かはっ……、なァ」

鳴管を撫でるか細い声に、俺はたまらず欲を吐いた。


嗚呼、愛しているよ花猫。


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