世界を知りたい

プロローグ

逢瀬（おうせ） 世界（せかい）は報われない。失礼かもしれないけれど私にはそう見えるのだ。

仕事が出来てオフィスのムードメーカー。お調子者だが周りをしっかり見ていて人望もある。

そんな彼、逢瀬 世界が片思い相手に告白をしてこっぴどく振られたところを私は先日目撃してしまった。

逢瀬 世界がその子に惚れていたのは一目瞭然だったと思う。

その子、小宮（こみや） 優子（ゆず）は仕事にも人間関係にも健気な頑張り屋で人と分け隔てなく素直に接する優しい笑顔の可愛らしい子だ。

逢瀬 世界は最初こそ小宮 優子のことを気にかけている友人というポジションだったがそれが恋心に変わるのは遅くなかったと思う。とても仲が良く、仕事のサポートや休憩時間のお昼も一緒にいて、たまに小宮 優子が恋愛相談をしているだろうという状況も私は見かけている。そんな状況を見て逢瀬 世界は中々健気な男だな、と思った記憶がある。

逢瀬 世界の気持ちが抑えられなくなると同時に小宮 優子が長年片想いしていた男とくっついたらしかった。

逢瀬 世界が告白をした日、小宮 優子の恋が叶った。告白を断ると同時に彼女が告げていた事実にこの世は残酷だな、と聞き耳を立てながら思った。

健気な女の恋は叶ったが、健気な男の恋は玉砕したらしかった。恋心はなんと難しい。

その告白の後はふたりの間に気まずい雰囲気が流れていたと思う。なにも関係ないのに私も勝手に気まずくなっていた。

少し時間が経った時にはもう元の2人に戻っていた、逢瀬 世界の気持ちはわからないが "いちばん仲の良い友達" としての立場を確立して一緒にいるように見えた。私はそんなふたりを見て男女の友情なんてあるのか？と思ったがどうでもいいことに気づいたので疑問を飲み込んだ。

私、春川（はるかわ） 雫（しずく）はこれだけ逢瀬 世界を見ているが仲が良いわけでも好意を持っているわけでもない。

どうしてなのかわからないが彼に興味があるのだ、その興味がなんなのかはわからないが。

興味はあるが関わりたくない、何故？と聞かれても特に理由はない。ただ強いて言うなら逢瀬 世界という当て馬に見える主人公の "世界" の1部を覗きたいだけでその物語に入りたくないのかもしれないとたまに考える。

それでもいつか、逢瀬世界の "世界" に少しでも関わりたいと心のどこかで矛盾を思っていることは秘密にしておこうと思う。