あの頃を思い出す温かい夜食
青柳 宙
緑のたぬき
「ただいま〜。」と言っても「おかえり。」なんて返事は帰ってこない。けど毎日のように言ってしまう。
大学を卒業し、一流の会社に務めるようになったと同時に一人暮らしを始めた。
最初の1年は初めての事ばかりで目まぐるしく大変だったが、最近になってやっと環境に慣れてきたところだ。とは言っても自炊が出来るほどではないけど。
今日は朝から上司と外を歩き回り、午後はひたすらパソコンに向かっていたせいで疲労感が半端ない。
そして現在深夜の0:30。帰りになにか買って帰ってくるほどの気力がなかったからなにもない。かといって自炊する気にもならない。その前にまず冷蔵庫に何があるのかすら分かっていない。
こういう時はレトルト食品や冷凍食品に頼るしかない。ほんとにいつもお世話になってます感謝。
一人暮らしで自炊も滅多にしない自分にとってはレトルトや冷凍食品は神としか思えない。毎日レトルトや冷凍食品に支えられて生きている。
これを考えた人はほんとに天才だと思う。
レトルト食品を買い溜めしている棚を漁っていると、緑のたぬきと赤いきつねが出てきた。
ふたつとも手に取ったが「疲れた時に天ぷらそばは最高すぎだろ。」と思い迷わず緑のたぬきを手にし、お湯を沸かすために立った。
緑のたぬきを見ると、自分の青春時代を思い出される。
ぐぅ〜。と、とても聞き馴染みのある音が聞こえた。
「誰だよ今お腹なったやつ」
「俺だよ。まじ部活合宿キツすぎじゃね?腹減ったんだけど。」
「いやまじそれな俺も腹減った」みんながお腹空いたと喚く。ちなみに今は22:50という絶対に今食べたら太る時間。
「いや全員かよ。じゃあみんなでなんか食おうぜ」
「いいなそれ。何にする」自分達にとって食べる時間なんて関係ない。ましてや太るなんてどうでもいい。たくさん運動したし明日もするし平気だろ。
「そりゃあお前。疲れた時の夜食は緑のたぬきに決まってんだろ。」ドヤ顔で差し出してくる。こいつにしてはナイスな案だ。
お湯を沸かしてみんなで綺麗に列並んでいた。ちょうどその時先生が来てバレたけど先生は怒らずに明日もあるんだからちゃんと寝ろよ。とだけ言ってきた。なんならちゃっかり先生も列に混じって緑のたぬきを食べていた。
みんなでうめぇうめぇ言いながら食べる天ぷらそばはあれが1番本当に美味しかった。
赤いきつねも油揚げの甘みが優しくてすごく美味しい。けどなぜか分からないけれど、自分の中で疲れた時は緑のたぬきを食べる習慣になっている。多分あの時の思い出がそうさせているんだろう。
初めての一人暮らしに忙しすぎる毎日。1人が寂しく辛くなって心にぽっかり穴が空いた気持ちになるけれど、そんな時に緑のたぬきの味の優しさと温かさで胸がいっぱいになって安心する。実家のような安心感。
今の自分には必要不可欠な相方のような物かもしれない。
いつもありがとう
「いただきます。」
あの頃を思い出す温かい夜食 青柳 宙 @sora__ao
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