Lesson.16
一方的な別れを告げられ、一か月ほど経っただろうか。
その宣言通り美咲は一切紗月に話しかけることはせず、あくまでも他人のように振る舞っていた。
部活が無ければ美咲は図書室に、紗月はそのまま家へ。部活がある日でも、自分たちから時間を合わせようとしない限りはぴったり同じ時間になる訳も無かった。
もちろん紗月は何度も誤解を解こうと話しかけようとしたのだが、授業が終わるとそそくさと近くの席の子と会話をするし、昼休みには教室から出て行ってしまう。
朝も起こしに来てくれることはなくなってしまったし、宿題を見せてくれることもなくなった。
メッセージアプリで連絡を取ろうとしてもスタンプだけの返信、酷い時では既読無視。
かれこれ十年以上の付き合いがあった美咲と突然一切会話しなくなる、という状況が未だに呑み込めず悲しいという感情よりも信じられないという気持ちが先走っていた。
実際、いざ一人にされてもいつも通りの学校生活を送ることは一応できている。
でもどこか大事なものが欠けてしまったような気がして、ぼんやりとして過ごす日が増えていた。
「紗月、顔色悪いよー?なんかあったの?」
今日も今日とて昼休みを告げるチャイムが鳴り、弁当の袋を持って隣のクラスへと向かう。
一緒に食べる相手がいなくなったため、響と共に昼休みを過ごしているわけだがここ数日はいつも最初にこんな言葉を掛けられていた。
「え~いつも通りだけど?寒いだけじゃない?」
そんな強がりで返してみるけれど、自分自身でも本調子でないことくらい気付いている。
紗月自身にも分かることを人の変化に目ざとい響が気付かない訳もなく、こうして毎日言及されているわけだ。
卵焼きを箸でつまんで口に運ぶ。口にものが入っている体にしてリアクションをしないつもりでいた。
響からの刺すような視線を受けながら口の中に食べ物を詰め込んでいく。
腑に堕ちなさそうな表情をしながら焼きそばパンに齧りつく響。
普段は美咲と一緒に居るのと同等くらいには居心地の良かった響との時間だったというのに、何とも形容しがたい重い空気が漂っている。
「ま、それならそれでいいけど。そろそろ吹部の子と仲直りしたらどうなの?」
大口を開けて最後の一口を収める響。包みを適当に机に放り投げ、もう一つクリームパンの袋を開ける。
「別に、喧嘩してる訳じゃないんだけど?」
流石にリアクションをしない訳にもいかないため、ポテトサラダを飲み込んで口を開いた。
そんなつもりはないのに、棘のある言葉として出てきてしまう。拗ねたようなその声音は子供っぽく、せっかく付き合ってくれている同級生に対してこんな態度を取っている自分が酷く恥ずかしかった。
「いや、流石にそれは無理があるでしょ。あんだけ毎日一緒なのに突然関わりゼロとか。あたしのことバカにしてない?」
「で、でも喧嘩したわけじゃないし。」
「じゃあ、喧嘩じゃないなら何なわけ?」
語尾を上げて、若干の煽り口調でそう続ける響。喧嘩ではないが、何かと問われれば困ってしまう。
にやりと口角を持ち上げる響は紗月には眼もくれず零れ落ちそうなクリームと格闘していた。
まるで猫のような気まぐれさに小さく嘆息しながら、
「どちらかといえば、一方的にフラれたみたいな…?」
「はぁっ!?」
独り言のような呟きに響はノーリアクションなのかと思っていたのだが想像の数十倍のリアクションをされた。
いったいどこにスイッチがあるのか、ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、鼻同士がくっつきそうなくらいまで距離感を詰めてくる。
「フラれたって何、あんたたち付き合ってたの?」
「え、いやそういう意味じゃなくて……。」
謎の食いつきを見せる響に若干たじたじになりながらとにかく否定をする。そんな勘違いをされてしまっては美咲にかける迷惑が半端ではない。
興味深々というキラキラと光る眼の響にひと月前に起きたことを説明する。
自分が若干コンプレックスを発揮して沈んでいたことも、突然絶好宣言をされたことも、それ以降口を利いて貰っていないことも。
それを全て聞き、訳知り顔でフムフムと頷くと、
「それってさ、紗月はその…綾小路さんのことが好きなんじゃないの?かなり重めに。」
という、若干見当はずれの結論を下すのだった。
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